月別アーカイブ: 2011年5月

予測的デザインーーーーー既製品を使う

第2次世界大戦が開始される2年前、
バックミンスター・フラーがイギリスの産業都市に対する大量爆撃の予測に余念のない
スコットランドの政治指導者からの依頼で提案したのは
大量生産できるワンルームの小さな自律的な居住装置だった。
それは開発済みだったのである。

カンザス・シティーにあるバトラー・マニュファクチュアリング社で大量生産している
亜鉛メッキされた鋼鉄でできた直径六メートルの穀物貯蔵庫を、
耐火性と耐震性があり、適度に断熱され、灯油で稼働する冷蔵庫および石油ストーブ、
そして既製品の家具類を備えた即時入居可能な
自律的ユニット(当時1500ドル)に転換する方法で、
その自律的な居住装置はデザインされていた。

数千基のダイマクション展開ユニットを
確実に都市から退去させられる住民の宿泊施設として
スコットランドの荒野に設置するフラーの計画案に
その依頼者は疑問を抱かなかった。

バックミンスター・フラーは、
可能な限り「既製品を使う」デザイン理論を
ダイマクションカーの開発時から一般化していたのである。

この20世紀のデザインサイエンスの手法こそ、
21世紀の緊急災害時だけではなく
平時においても広く利用可能である。

シナジェティクス研究所 梶川泰司

MADデザイナー

コンピュータでデザインする人は実に多い。
たいていの構造も
CAD(computer-aided-design)でデザインできる。

シナジェティクスの発見は
コンピュータで支援されるデザインよりも
モデリングで支援される概念モデルに依存している。

このMAD(model-aided-design)デザイナーは
アプリケーションではなく、
構造と意味を統合する
メタフィジックスに属している。

直観的なMAD(model-aided-design)で到達する
シナジェティクス・モデルは
思考言語(thinktionary)でのみ記述可能である。

テンセグリティ構造は角度と振動数である

自然はテンセグリティ構造を再生システムとして採用した。
人類のこれまでの固体的住居を構成する殻や壁は、
圧縮材ではなく張力材として機能すべきだ。
そして、テンセグリティ構造は、
周囲の環境と共存した状態を形成するために常に振動するシステムだ。

自然が振動というDo More with Lessを採用する時、
振動は構造を常に軽量化すると考えられる。
Doing More with Lessは、張力材を構造に包含させるための、
構造デザイン上で最も効果的な方法論になる。

<角度と振動数(=分割数でもある)はテンセグリティ構造に変換できる> Y.K

2011年度 デザインサイエンス講座開講の準備 その3

社会経済の問題を解決するための
政治的な手段ではなく、
アーティファクトの発明と開発だけを手段として
デザインサイエンスの目的を続行するうえで
不可欠となる作業項目を日々遂行するには、
お金ではなく、<食料、エネルギー、シェルター>が必要だ。

食料とエネルギーとシェルターを
すべて同時に十分に与えられていない
個々人にとって
他人からの贈与や補助金、
そして貯蓄など当てにしないで
アーティファクトを唯一の手段として
問題を解決する責務に耐えるだけの
時間と経費を計算できる包括的能力は
最初の重要なノウハウである。

このノウハウを実践的な行動によって習得するのが
デザインサイエンス講座である。

ノウハウという実際的知識の習得プロセスにおいて
お金ではなく、<食料、エネルギー、シェルター>が必要だという
経験に基づいた認識は、
自己のテクノロジー(=自己規律)に属する。

2011年度 デザインサイエンス講座開講の準備 その2

太陽エネルギーという日々の収入源から構成された
多様な派生物と副産物でデザインされた人工物は
これまで以上の生活水準を維持できる。

この生活水準を達成・維持し得る方法こそが、
パイプと送電線そして料金メータを介した
少数の人間による狡猾で長期的な搾取から
人間を解放するノウハウであることは明らだ。

この解放のための知識と技術、
そして資本が統合されていないだけである。

エフェメラリゼーション革命                         ーーー『クリティカル・パス―宇宙船地球号のデザインサイエンス革命 』について

〈不可視〉のテクノロジーによって、
機能の一定の増加を達成するために
投入される素材の単位重量あたりの体積、
単位エネルギーあたり、
そして単位時間あたりの労働時間
と生産システムの維持管理時間あたりで
遂行される仕事は、
原理の発見と発明によって
絶えずそれらの量と質を高めていく。

この複雑な過程を、バックミンスター・フラーは
物質の短命化(エフェメラリゼーション)と呼ぶ。

全体的に増加した技術的ノウハウの総和と
その包括的な統合作用によって、
1970年代にすでに人類は、
目には見えない境界を超え、
全人類のための普遍的な成功が
技術的にも経済的にも実現可能な
革命的な段階に到達していたことを
『クリティカル・パス―宇宙船地球号のデザインサイエンス革命 』
(R.バックミンスター フラー 著, 梶川 泰司 訳 白揚社 2007)
で指摘している。

地球人による化石燃料と原子力のこれ以上の使用が
すべて段階的に廃止可能なことも実証している本書では、
<脱>原発や<反>原発以上に
テクノロジー自体が本質的なエフェメラリゼーションの過程を
指向していることに気づかせてくれる。

テクノロジーとは、
doing more with lessの無限性を内包している
自然の姿である。

孤立しながらも
真のテクノロジーを発見する個人こそは
つねに宇宙的段階を指向できる。

2011年5月4日
シナジェティクス研究所
梶川泰司