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デザインサイエンスとは何か

バックミンスター・フラーのデザインサイエンスは、
最近、細分化されたさまさまな領域のデサインを
統合する科学的デザインだと思われている。

そこには、デザインは人間のみが造り出すだすもので、
そのデザインは科学的な方法論でもっとも効果的に試行できるという前提がある。

しかし、科学的な方法論以上に曖昧な前提はない。

たとえば、ナノチューブ・ラジオという最小のラジオをデザインする過程で、
ラジオのすべての部品を統合してより小型化しようとしたのではなく、
ナノチューブには、ラジオが必要とする機能が
まったく別の形式ですでにデザインされていたのである。

ナノチューブ・ラジオの原理を発見する以上のデザイン行為は存在しない。
人間はデザインを人工物で洗練できるかもしれないが、
自然以上に統合することは不可能である。

これは特殊なシナリオではない。
科学全体がプリセッションの歴史だ。
曖昧な概念が、人間を散漫で不確かなものにする。

バックミンスター・フラーの<予測的>デザインサイエンスは、
プリセッションを受け入れた最初のメタフィジクスの方法論である。

参照 「ナノチューブ一本でラジオ!」
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0906/200906_044.html

ロイヤルティ

個人発明家や企業内発明家は無数に存在するが、
名前のない雑草はないように、
すべての最初のアイデアは個人に属する。

一方、名前があろうとなかろうと、
原理は自然に属する。

しかし、
このことは、原理の発見者に
工業所有権が適用されない特許制度とは無関係である。

特許制度は、武器製造技術の奨励のために
専門分化を加速する制度として登場したからである。

絶対君主制の下で王が報償や恩恵として発明家に与えた名残は、
知的財産権という概念、つまりロイヤルティ(royalty=王権)にある。

参照
http://two-pictures.net/mtstatic/
発明

目的論的受容ーー5月のデフォルト

経済とは、太陽のエネルギーのすべての変換過程である。
変換された太陽系エネルギー資本の一つが、石油であった。

石油がどのように生成されたかは、科学的に分かっていない。
微生物の光合成が関与しているかもしれないが、
まだ人類は、石油を自然ほど経済的に生産できない。
だから石油は有限のままである。

資本それ自体よりも動的な変換過程を、
目的論的に制御できる富のメタフィジクスに到達した
シナジーは、
植物と動物のユーザたちが、欲しいだけ利用しても
自動制御できるサイバネティクスに46億年かけた。

だれにも所有できないが、
すべての場所で受容できるように
光と風に5月の香りを与えた。

これ以上の無償の贈与があるだろうか。

斥力と引力

原子間の2点間距離を維持するために、
自然は、引力と斥力を利用する。
(しかし、斥力としての重力はまだ確認されていない)

テンセグリティは、自然が利用するこの原理を再現している。
2点間距離を接近させると他の2点間距離は、
互いに遠ざかり、球の半径は増大する。
互いを遠ざけようとする力は斥力である。

テンセグリティが原子モデルならば、
テンセグリティ・モデルの張力材に、ゴムひもは不適切である。
ボールのようにバウンドできないからではなく、
シナジー的に斥力の機能を形成できないからである。

テンセグリティは、互いに非接触な原子核にように
自律的に振動することによって、
致命的な変形を免れているのである。

システムの振動によって、
強度と剛性はより向上するのである。

そして、
構造の安定性を大地の静止状態に求める
建築の構造とは、決定的に異なっている。

テンセグリティ原理とニューマチック構造

ジオデシック・テンセグリティ構造は、
ある瞬間に偶然に内側から皮膜に向かって衝突し、
皮膜を外側に押す特定の気体分子の振る舞いを、
大円(ジオデシック・ライン)上に位置する不連続な圧縮材に置換した
無柱で中空の皮膜構造体である。
この場合、冗長で過剰な分子群は構造から完全に除去されている。

言い換えれば、リダンダンシーの完全な排除と陳腐化に成功した
最初の構造システムになる。

ジオデシック・テンセグリティ構造を
構成する不連続な圧縮材に対応するパターンにそって、
風船の被膜内面に圧縮材の両端部と結合するポケットを取り付けて、
その硬く曲がりにくい圧縮材の両端をそのポケットに挿入すると、
あたかも気体を充填して内圧をかけたような球形構造を維持できる。

そして、その形状を維持したままその皮膜表面に無数の穴を開けても、
驚くことにこの状態を維持できる。

皮膜に最大の穴の面積をデザインすると、
ジオデシック・テンセグリティ構造の最短の張力材の総計からなる
ジオデシック・ネットワークの編み目になるのである。
(このときに、テンション材の総重量も最軽量にできる。)

これこそが、ジオデシック・テンセグリティ構造が、
最軽量のニューマチック構造にデザインできる原理である。

テンセグリティ・シェルター 「Doing More with Less」

住居は森のようになるべきである。
分解も移動もすべて成長過程に包括している。
それに必要なエネルギーのすべてを、光合成でまかなっている。

もっとも知性的なシステムは、
エコロジーという概念が発見される前に
すでに達成されている。

アンチ・アブノックスからdoing more with lessへ

20世紀当初の産業社会は、
決して〈金儲け=アブノックス〉を目的にしてはいなかった。

現在の超国家企業こそが、
個人の誠実さから生まれる発明の巧みさを育て、
優れた製品だけを大量生産するための、
産業を指導する知恵を、
完全に捨て去ってしまったのである。

宇宙で絶え間なく生成するあらゆるエネルギー変換と
それらの相互変換の過程のみに注目し、
物質と時間・エネルギーの純粋なコストから形成される
物質化のための産業(=アンチ・アブノックス)は、
消滅したのである。

しかし、物質化のためのほとんどの素材と道具は、
既製品として生産され続けてきた。
アンチ・アブノックスを目指す産業を
個人的に形成できるまでに。

無数の既製品から特定のある機能(doing more with less)を
生成するための偶然の組合せの加速的な増大は、
必ずしも大量生産の手段を必要としない。
個人の誠実さから生まれる発明の巧みさを育てるためには。

これは、
バックミンスター・フラーが
生き延びた過酷な産業社会にはなかった可能性だ。

doing more with less vs 超専門分化

すべての超専門分化には、
長い教育期間と教育投資が必要だ。

こうして、堅実で安定した
高級な奴隷の仕事にも差別化が生まれる。

しかし、
原理の発見だけではなく、
複数の原理の相互調整をデザインし、
同時に、
包括的な思考をdoing more with less
で物質化する
デザインサイエンスに比べたら、
その教育期間と教育投資でさえ少なすぎる。

シナジェティクス・モデルによる対称性の破れ

『クリティカル・パス  宇宙船地球号のデザインサイエンス革命』新装版
(バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社、2007)には、
バックミンスター・フラーの短いが難解なシナジェティクスから引用した序文がある。

「従来のクリティカル・パスの概念は、直線的であり、
それ自体十分な情報を与えてくれない。
球状に拡大収縮し、軸回転し、極方向に伸開線的—縮閉線的な軌道システムからの
フィードバックだけが包括的にかつ鋭敏に情報を与えてくれる。
球状軌道的なクリティカル・フィードバック回路は、脈動して周期的な吸収放出を繰り返す。
クリティカル・パスの原理的要素は、
平面上で互いに重なり合う直線的な構成要素を単位としない。
それらは、汎-相関的に再生しつづけるフィードバック回路が、
システマティックに互いに螺旋を形成しあっている複合体なのである。」
(『シナジェティクス第二巻[改訂版]』から)

この球状軌道的なクリティカル・フィードバック回路に関する、
動力学的なシナジェティクス・モデルは存在する。
その実在するモデルから、フラーはつねにモデル言語によって記述していることがわかる。

そして、私はこのモデル言語を敷衍する他のシナジェティクス・モデル群を発見したことで、
偶然にもアメリカで『クリティカル・パス』が出版された直後から、
2年間にわたって新たなシナジェティクス原理の発見プロセスを
バックミンスター・フラーと共有することになったのである。

そしてこのフィードバック回路には予想外の原理が潜んでいた。

その研究論文は、『コズモグラフィー シナジェティクス原論』
(バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社、2007)
の補遺に記載されたシナジェティクス・モデルによる<対称性の破れ>の発見に
発展したのである。

物理学では到達できなかった対称性の破れのモデル言語は、
ついに視覚化されたのである。