クリティカル・パス」カテゴリーアーカイブ

生活器と武器

1967年当時の第3次中東戦争で使用されイスラエル群の戦車は
広大な砂漠地帯の高速移動の要請から剛性と強度のある純粋な鉄の使用とともに軽量化された。
1972年の第4次中東戦争ではエジプト軍の戦車はさらに軽量化され高速移動できる戦車で対抗した。

それでも、その戦車の1台あたりの重量は
1967年のモントリオール博のアメリカ館で使用された
バックミンスター・フラーのジオデシックドーム
(=最初のバイオスフィアとしてのエデンドーム)の全重量の2倍以上もあった。

<浮かぶ都市>のための前駆体のジオデシックドームの浮力計算をしていた事実は
現代の建築家にもほとんど知られていない。

直径85メートルのモントリオールドームは大気圏内に<宇宙線地球号>として係留されていたのである。

兵器を生活器にする変換テクノロジーは、冷戦開始と共にもっとも進化した。

その後、それ以上に進化したのは権力テクノロジーである。
そしてもっとも後退したのは自己のテクノロジーである。

われわれの創造的能力は、未だに文系と理系に分断されたままである。
この分断こそ、冷戦時代をくぐり抜けた19世紀的な教育論の生き残りである。

備考;
武器(weaponry)に対して生活器(livingry)と対比的に翻訳したのは
『クリティカル・パス』(バックミンスター・フラー著 梶川泰司訳 白揚社 1998)が最初である。

クリティカル・パスの解決方法  

その1

クリティカル・パスの問題解決方法は、

1.いつまでに何を成し遂げたいか

2.いつまでにどのように成し遂げたいか

という2つの要素から成り立っている。

つまり、方法と経験の秩序化の過程(あるいは工程)の全履歴を

行動によってのみ客観的にかつ動的に形成(あるいは記述)することが目的化されている。

その2

プリセッション

クリティカル・パスの過程において、

本来の目的外の異なった問題とその解決方法の発見に遭遇できた場合は、

上記の2つの要素が選択されるまでの履歴だけではなく

クリティカル・パスを必要とした動機にまで遡れるだろう。

その3

上記の方法は、発見的クリティカル・パス方法であり、

従来の帰納法的(induction)とも演繹的方法(deduction)とも異なっている。

決定的な違いはクロノファイルの有無にある。

梶川泰司

クリティカル・パス的思考

デザインサイエンスは過去に為された種々の実験と独自の実験から
導かれた次の科学的思考に基づいて
もっとも包括的な具体的な方法と人工物をデザインしてきた。

1.
人類の高い生活水準が、日々の太陽エネルギーからの多様な派生物で
完全に維持できることは明らかである。
2.
この生活水準を達成・維持できる手段が、
パイプと送電線そして料金メータを介した少数の人間による大多数の搾取から
人間を解放する人工物であることは明らかである。

クリティカル・パスはアンチ・アブノックスである。
(パイプと送電線そして料金メータは20世紀以後の最大のアブノックスである。)
結果的に、
上記の科学的思考はつねに最新のクリティカル・パス方を更新することができる。

予測的デザインーーーーー既製品を使う

第2次世界大戦が開始される2年前、
バックミンスター・フラーがイギリスの産業都市に対する大量爆撃の予測に余念のない
スコットランドの政治指導者からの依頼で提案したのは
大量生産できるワンルームの小さな自律的な居住装置だった。
それは開発済みだったのである。

カンザス・シティーにあるバトラー・マニュファクチュアリング社で大量生産している
亜鉛メッキされた鋼鉄でできた直径六メートルの穀物貯蔵庫を、
耐火性と耐震性があり、適度に断熱され、灯油で稼働する冷蔵庫および石油ストーブ、
そして既製品の家具類を備えた即時入居可能な
自律的ユニット(当時1500ドル)に転換する方法で、
その自律的な居住装置はデザインされていた。

数千基のダイマクション展開ユニットを
確実に都市から退去させられる住民の宿泊施設として
スコットランドの荒野に設置するフラーの計画案に
その依頼者は疑問を抱かなかった。

バックミンスター・フラーは、
可能な限り「既製品を使う」デザイン理論を
ダイマクションカーの開発時から一般化していたのである。

この20世紀のデザインサイエンスの手法こそ、
21世紀の緊急災害時だけではなく
平時においても広く利用可能である。

シナジェティクス研究所 梶川泰司

新クリティカル・パス法

クリティカル・パスの利点は失敗しないことであるが、
それでも失敗したなら、見事な失敗になるだろう。

例えばダイマクションハウス。

このプロトタイプが量産に失敗したのは
投資家の期待する
「ほとんど何のリスクも負わない資本主義」にある。

それから70年が経過した。
もちろん、クリティカル・パスはすでに
バージョンアップしている。

ジオデシック理論やテンセグリティ理論を採用したとしても
生存に関与しないアブノックスなシェルターを量産するための
ノウハウからなにも革命的な構造は生まれなかった。

デザインサイエンスのためのクリティカル・パス法は
生まれ変わったのである。

産業技術の革命に最適化したばかりか、
ジオデシック理論やテンセグリティ理論自体が
生まれ変わったからである。

シナジェティクスによるプライムデザインは
ついにあたらな開発方法を選択できる環境を形成したのである。

グランチについて

バックミンスター・フラーは死の数ヶ月前に次の言葉を残している。

「北アメリカ大陸のアメリカ領内にある産業界のあらゆる工場とアメリカの領土、
そして物理的な富の生産能力があって実際に生産するあらゆる企業の九十パーセントは、
スイス銀行にある口座の見えない暗証番号を保有する人間によって目の届かないところから支配され、
冷酷に機能する超国家企業という、
人間には見えない所有物にすでになってしまったかまたはなろうとしている。」

ほとんど何のリスクも負わない資本主義という新たな巨人が、
現在の世界を支配しはじめていることを
バックミンスター・フラーは30年前に予想していた。

その彼が個人に期待し、何をして欲しかったかは、
『クリティカル・パス』(バックミンスター・フラー著 梶川泰司訳 白揚社 2007)
の第6章のワールドゲーム理論およびデザインサイエンス戦略に凝縮されている。

短命化(エフェメラリゼーション)

〈不可視〉のテクノロジーの発展における発明家の役割は、
機能的性能の一定の増加量を達成するために投入される素材の一単位体積
または重量、単位エネルギーあたり、
そして、単位の労働時間および生産システムの維持管理に要する時間あたりで
遂行される仕事において
絶えずその量と質を高めていく。

この複雑な過程をバックミンスター・フラーは漸進的な短命化(エフェメラリゼーション)と呼んでいた。

現在の人類が短命化(エフェメラリゼーション)に
総人口の1%も関わっていないのは
その教育プログラムが意図的に不足させられているからだ。

発明がお金もうけの手段として発明家さえも搾取できたのは、
国家や企業が設備投資と引き替えに特許制度の出願人から
発明家の知的財産権を譲渡する場合
短命化による膨大な収穫を非公開のままで
独占できたからである。

発明は無限に存在する。
宇宙の原理は無限に存在することは科学的に否定できなかった。

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参考文献:
この歴史的で包括的なエフェメラリゼーションについては
『クリティカル・パス』(バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社 2007)
に真実が述べられている。

キンドル考ーーーー非物質化と課金システム

キンドル(kindle)とは、ウサギが子どもを生むことである。
(この場合、ウサギは基本的に食用である。)
一方、キンドル(Kindle)はamazonが展開している
ebookのプラットフォームの商標である。
この言葉は偶然の一致ではない。

歴史的に家畜は動く富であった。
牛は、ウサギの数百倍の体重をもっている。
タンパク質を豊富に蓄え、それほど短命でないこの大型の草食性動物は、
生命を維持するための実際的な富が可能な限り凝縮されているので
移動可能な換金手段になり得る。
銀行家が金銀銅の硬貨を貸し付けるときの担保にされた。

銀行家からお金を借りて貿易船に乗った冒険家は、航海が成功裡に終わると、
借金の返済と同時に、
担保とされた牛が航海中に生んだ子牛を〈利子〉として銀行家に支払った。
この支払い方法は、「カインド(Kind=現物)」による支払いと呼ばれた。

キンドル(Kindle)というハードウェアに、
読者は電子書籍という「現物」をダウンロードして知識を増す毎の見返りとして、
言い換えれば、「現物」のウサギが子どもを生むたびに
子ウサギという利子を支払うのである。
同時にアマゾンは作家から親ウサギという著作物の預かり料も徴収できる。

外見は著者の著作権料を支払う代行の課金システムに装っているが、
読者からも作家からも課金できる概念の構築に成功したのである。

彼らは21世紀の新しい銀行家に移行している。

Kindはかつて子牛を意味したが、 21世紀型銀行では、
ウサギのような小さな利子で十分なのである。

季節毎に草原を放牧させる牛の出生率とは違って、
餌を食べない重さのないウサギは無限に生めるから。

不都合なエコロジーたちーーーiPadという小さなTrimtab

パソコンにもリダンダンシーがある。

IT革命に付随する無数のリダンダンシーを排除するには
2つのテクノロジーがいる。

他者とのコミュニケーションを介した仕事の道具(Trimtab)によって
環境により適応するためのテクノロジーと
PCから過剰なCPUと機能を排除する決断力だ。
どちらも産業的なテクノロジーよりも
自己のテクノロジーに関係するだろう。

iPadは、同時的かつ非同時的な宇宙の出来事の受容器になるだろう。

新聞や雑誌という紙媒体がなくなるのは
もっとも効果的なエコロジーであるが、
メディアには不都合なエコロジーだった。

エコ移動式住居

大地震が来るたびにモービルホームの生産は開始されるが、
大恐慌が来る前に、生産を開始する必要性に関して
バックミンスター・フラー以上の予測はこの30年間存在しなかった。

移動式住宅の生産にこそは、
地産地消が不可能なメタボリック・デザインが効果的である。
移動可能な住居こそが、エコ住宅である。

「・・・・人工物デザイン計画の優先順位で
世界的電力ネットワーク統合の次にくるのは、
当面は地理的に固定されている世界中の人間の活動のための、
物理的環境を制御する装置である。

人間の活動は、自動車、バス、鉄道、航空機、衛星といった
迅速に移動する環境制御人工物とは対照的に、固定されているのである。
都市の超高層ビルは静止して見えるので、
それらの部品がすべて遠隔地から輸送されてきており、
また、そういった部品と素材の多くは製造とその組み立ての過程で
何度も相互に輸送を繰り返している事実に気づいている人はあまりいない。

1980年の時点で、アメリカの平均的家庭は3年ごとに住んでいた町を出て、
新しい場所へ転居した。彼らがそうするのは主として、
移動した工場やオフィス、そして新しい空港やショッピングセンターが
もたらす地域生活の利便性に合わせて、
人間の生産機能を再調整するためである。

私が移動式住居について語るとき、それはショッピングトレーラーや
テントを指しているのではなく、
長期にわたって地理的に固定しておくこともできるが、
どんな距離でも広い範囲を容易に、
そして経済的に輸送でき再設置可能な住
居のことを指している。」

『クリティカル・パス』第10章から引用
バックミンスター・フラー著 梶川泰司訳 白揚社2004