デザインサイエンス(バックミンスター・フラー)」カテゴリーアーカイブ

なぜ張力による統合(tensional integrity)が優先されるのか

テンセグリティ(tensegrity)という言葉は、
張力による統合(tensional integrity)短縮形である。
なぜ、バックミンスター・フラーは、そう名付けたのだろうか。

圧縮材は、より長くなると撓んできて、ついに挫屈する傾向がある。
張力材は、より長くなっても、張力の限界値は同じである。
テンセグリティでは、圧縮材は撓まない長さの局所的な島々として配置され、
構造全体の統合性は、張力が包含する閉じた有限のネットワークで保証される。

テンセグリティ構造の形態は、不連続で局所的な圧縮材の振る舞いではなく、
閉じた有限のシステムを包括する連続的な張力の振る舞いで決定される。

圧縮力による統合(Compressional integrity)は、存在しない概念である。

しかし、ほとんどの建造物は、圧縮材のみでより固体的にデザインされてきた。
なんという物質とエネルギーの無駄づかいだろう。

重ければ重いほど、安定するという世界観が
重ければ重いほど儲かるというビジネスを批判できなくなったにちがいない。

まぎれもなく、
建築ビジネスの圧縮材への偏向は、二酸化炭素の増加をより加速してきたのである。

テンセグリティ・モデルの展示

「エコ&アート」 展に直径120センチのテンセグリティ・モデル
の最新作を展示している。

これほど精密で、ハイテンションなテンセグリティ・モデルを
製作したことはなかった。

私はこのテンセグリティ・ジョイントのデザインに、10年以上を要した。
テンセグリティには、つねに最新のハイテク素材からなるテンション材とその結合方法が要求される。

<2つの作用が、同時に同じ点を通過することはない。>
このテンセグリティモデルのジョイントデザインから理解できる。

場所;群馬県立館林美術館
http://www.gmat.gsn.ed.jp/ex/ex6.html

概念の牢獄

燃料電池は、電気化学反応によって電気を取り出す純粋な電池システムである。
つまり、使用する電解質は燃焼とは無関係であるが、
燃料という炎を伴う酸化作用の概念は、
なぜかシステムの名前に生き残っている。

同様に、核燃料もウランやトリウムの燃焼ではない。
原子核分裂の過程においてエネルギーを放出する物質に酸化作用は存在しない。

こうした間違った概念は、
建造物を固体的に設計し、重力を大地に流す危険な習慣に似ているだろう。
(非固体的なテンセグリティシステムには基礎部が存在しない)

構造物を石から作る歴史は、数万年も続いてきたが
炎を生活のエネルギーとして使う歴史はさらに古い。

(それゆえに、政治的な炭素排出権では、これらの概念を是正できないだろう。)

再考 人力居住機械とデザインサイエンス

炭素繊維を使った複合材の構造とマイラーの皮膜から構成された史上初の
翼長29メートルの人力飛行機は、20キログラムの重量しかなかった。
それは1979年の記録だ。

地球温暖化に適応したシェルターを、金属でデザインしようが、
再生的なプラスティックでデザインしようが、
分解・移動できない固体的住居は時代遅れである。

半永久的に個人が居住できるモバイル用シェルターが、
人間の平均体重よりも軽くできる構造は、
原理的にテンセグリティ・ジオデシック構造しか存在しない。

人力飛行機の設計のように、
この人力居住機械はハンドメイドで十分だ。
なぜなら、必要な道具と素材はすべて生産されているからだ。

21世紀の経済恐慌は、生産性の低下からではない。
(過剰な生産性を兌換紙幣が奪っているシステムに科学者や技術者は無頓着すぎるだろう)
必要なモノをデザインするためにクライアントは必要ではない時代にいる。
デザインサイエンスは再開された。

宇宙の要求に従った、
元素の平均的分布化こそ環境デザインだ。

参照
+81 シナジェティクス研究所インタビュー
http://www.plus81.com/plus/tnf/talk2_1.html

人工物とデザインサイエンス

資本主義社会の全労働人口の90%以上は、
生命維持に必要とされる富を生産しない仕事に従事している。
潜在的失業者は、100%に近づいている。

デザインサイエンスとは、
既知となった一般化された原理や技術的な発明を応用するばかりではなく、
新たにもちあがってくるだろうと予測できる問題を解決するための
最適な人工物を発明(デザイン)することである。

予測的発明は、計画的偶然(プリセッション)から生まれる。

デフレと大不況が、サイコロで決まるわけではないならば、
潜在的失業者はこの人工物を支持するだろう。

水や電気は、バイオスフィアならどこでも生成できる。
最優先の人工物は、移動可能なレンタル住居(シェルター)である。

家を所有するために金利を30年間も銀行に払うのは、時代遅れである。

デザインサイエンスにとって、「既製品を使う」とは何か。

ーーーーシナジーの階層構造化ーーーーー

あらゆるカタログで販売されている部品が、
それらが作られた最初の目的から逸脱して、
新たな機能へと再統合される確率は、加速度的に増加している。

シュルリアリズムは、
「手術台におけるミシンとコウモリ傘との出会い」を美学理論としたが、
デザインサイエンスでは、既製品をこれまでに存在しなかった関係の発見
(技術者はしばしば用途開発という概念で説明する)によって、
諸関係の階層構造を可能な限り統合する目的論(テレオロジー)へと変容する。

新たなリアリティの生成過程に登場する「手術台とミシンとコウモリ傘」が
すべて既製品であるように、量産可能な工業製品のプロトタイプにこそ、
可能な限り既製品から構成する可能性は、
バックミンスター・フラーが1933年にダイマクシオン・カー(註)を
デザインしたとき、空力学的なボディー以外のすべての部品が
既製品として調達可能だった経験から始まった。

それから76年が経過した現在、
既製品の種類と機能は比較にならないほど増大し、
ついに自動車は家電やPCと同じ部品、
そしてソフトウェアをより共通化するようになったのである。
(住宅が高価であるかぎり、住居の共通部品化は、
もっとも遅延させられていることになるだろう。)

少なくとも、シナジェティクス研究所が
2008年に公開したテンセグリティ・シェルターのプロトタイプは、
化学的抽象物(ケミカル・アブストラクト)のシナジー、
つまりシナジーの階層構造が物質化したものである。

わずか5種類の既製品から構成されているデザインは、
超軽量化と開発コストの問題を解決する方法論を確立した結果である。

しかし、この目的論には美学理論のパラメータ化では、
とうてい到達できない計画的偶然性(プリセッション)が介在する。
あらゆるプリセッションは、論理的に生成できないが、
生成され結果は論理的に単純化されている。


1927年に発明したダイマクションカーは
ロケット・ジェットタイプの支柱構造をもち、
全方向性に対する操舵性もよく、2基のガソリンエンジンによって駆動し,
高い操縦性も兼ね備えた翼のない輸送手段の開発
(翼があるバージョンも同時にデザインされている)

デザインサイエンスとは何か

バックミンスター・フラーのデザインサイエンスは、
最近、細分化されたさまさまな領域のデサインを
統合する科学的デザインだと思われている。

そこには、デザインは人間のみが造り出すだすもので、
そのデザインは科学的な方法論でもっとも効果的に試行できるという前提がある。

しかし、科学的な方法論以上に曖昧な前提はない。

たとえば、ナノチューブ・ラジオという最小のラジオをデザインする過程で、
ラジオのすべての部品を統合してより小型化しようとしたのではなく、
ナノチューブには、ラジオが必要とする機能が
まったく別の形式ですでにデザインされていたのである。

ナノチューブ・ラジオの原理を発見する以上のデザイン行為は存在しない。
人間はデザインを人工物で洗練できるかもしれないが、
自然以上に統合することは不可能である。

これは特殊なシナリオではない。
科学全体がプリセッションの歴史だ。
曖昧な概念が、人間を散漫で不確かなものにする。

バックミンスター・フラーの<予測的>デザインサイエンスは、
プリセッションを受け入れた最初のメタフィジクスの方法論である。

参照 「ナノチューブ一本でラジオ!」
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0906/200906_044.html

ロイヤルティ

個人発明家や企業内発明家は無数に存在するが、
名前のない雑草はないように、
すべての最初のアイデアは個人に属する。

一方、名前があろうとなかろうと、
原理は自然に属する。

しかし、
このことは、原理の発見者に
工業所有権が適用されない特許制度とは無関係である。

特許制度は、武器製造技術の奨励のために
専門分化を加速する制度として登場したからである。

絶対君主制の下で王が報償や恩恵として発明家に与えた名残は、
知的財産権という概念、つまりロイヤルティ(royalty=王権)にある。

参照
http://two-pictures.net/mtstatic/
発明

目的論的受容ーー5月のデフォルト

経済とは、太陽のエネルギーのすべての変換過程である。
変換された太陽系エネルギー資本の一つが、石油であった。

石油がどのように生成されたかは、科学的に分かっていない。
微生物の光合成が関与しているかもしれないが、
まだ人類は、石油を自然ほど経済的に生産できない。
だから石油は有限のままである。

資本それ自体よりも動的な変換過程を、
目的論的に制御できる富のメタフィジクスに到達した
シナジーは、
植物と動物のユーザたちが、欲しいだけ利用しても
自動制御できるサイバネティクスに46億年かけた。

だれにも所有できないが、
すべての場所で受容できるように
光と風に5月の香りを与えた。

これ以上の無償の贈与があるだろうか。