デザインサイエンス(バックミンスター・フラー)」カテゴリーアーカイブ

デザインサイエンスの実践

テンセグリティ概念の懐胎期間を終えた現在、
テンセグリティー・システムの実用化は
21世紀のデザインサイエンスの最優先課題になっている。

テンセグリティー・システムの研究開発によって、
新たな形態の発見とその構造分析において信頼できる技術を獲得できたならば、
その構造力学的効率は、いくつかの構造実験によって示すことができる。

テンセグリティー概念は、
未だ構造デザインの主流には含まれていないが、
ついに個人用のテンセグリティシェルターの原寸大のプロトタイプは
ローコストで制作可能になったばかりか、
標準的な設計基準を効果的に満たすことができる段階に至っている。

標準的な設計基準とは、
99%の構造部材が既製品から構成されると同時に、
分解と移動が可能な超軽量のモバイル・テンセグリティである。

すべてのほ乳類は、住処は自分で造る。

デザインサイエンスについて

形態は建築では静的であるが、
デザインサイエンスでは動的である。

建築家は動く家具はデザインしても
自動車や飛行機をデザインできない。

この違いは構造の軽量化とその安全性に表れる。

動的な機能はモジュールの発見に起因する。

例えば、固体的なプラトンの正多面体でさえ、
すべてシナジェティクス・モジュールから形成できる。

シナジェティクス

思考そのものが、全宇宙に関する人間の見当違いを自己訓練によって
如何に棄却できるかにかかわる場合、
その見当違いの多くは、モデリングによって証明されてきた。

そのプロセスは論理的とはいえない。むしろ神秘に違いない。

構造の方法

すべての道具が原子から形成されているのに
原子自体の内部構造を調べる方法は長い間難問であった。

構造の定義が発見されて半世紀も経過するのに
テンセグリティ構造に安全に個人が暮らす方法は
長い間疑問であった。

細胞のすべての構成要素が解明されているのに
テンセグリティ構造を調べる方法が
生物学者からは提案されなかった。

構造の最良の方法も発見を待たなければならない。

「構造とパターン」

ピカソの偉大さに感動して、絵描きになりたいと思う人は
ピカソの絵を所有したいとは思わないだろう。

しかし、ジオデシック・テンセグリティの原理だけではなく
その実用性と経済性に感動したら、
だれでも自律的構造の機能を自ら再現して
生きるための道具にしたいと思うだろう。

すばらしい「製品を所有する」から、
「宇宙の機能を再現する」ことに時間とお金を使うだろう。

宇宙には人類がまだ利用していない「構造とパターン」が無数に存在する。

テクノロジーは企業が作り出すモノではないということが
理解され始めた。
(酸素や石油を備蓄したのはバイオスフィアである)

クロノファイル

私はこれまで千個以上のシナジェティクスモデルを再現してきた。
そのためには1万日以上の思考実験を日課としてきた。

バックミンスター・フラーは1975年に『シナジェティクス1』を、
1979年『シナジェティクス2』を表した。
私が1983年までに再現したいくつかのモデルは、バックミンスター・フラーの半世紀間の
思考実験とは異なっていた。
それは彼が私と共同研究した理由である。
そして、それ以後の彼以外のシナジェティクスモデルは
すべて『シナジェティクス3』に含まれる計画があった。
しかし、彼の突然の死によってそれは途絶えてしまった。
『コスモグラフィー』(白揚社2007)と『シナジェティクス3』は異なっている。

『シナジェティクス3』(仮題)は2010年の夏から定期的に出版される予定である。
『シナジェティクス3』はフラーの死後から現在までの
27年間のクロノファイルから編集される。

デザインサイエンティスト
梶川泰司

エフェメラリゼーションの起源  その1

ジオメトリーをアートにする試みからアートもジオメトリーも変革されたことはない。
アートをジオメトリーにしようとする試みも同じだろう。
芸術はつねに既存の芸術形式を模倣しない純粋な形式を作り出すが、
原理は異なった原理を作り出すために既存の原理を再利用するからだ。

ケネス・スネルソンはテンセグリティオブジェを創作した。
彼は形態的な独創性を、オブジェの回転対称性を乏しくするか、その非対称性に求めた。
しかし、形態的な美と引き替えに同型からなるテンセグリティモジュールは著しく後退したばかりか、構造としてのバックミンスター・フラーのテンセグリティを否定するという
この半世紀間の彼の見解はジオメトリーをアートにする試みと理念の限界を示している。

バックミンスター・フラーがシナジェティクスと幾何学の相違でさえ
オブジェという客体に求めなかったのは、シナジェティクスのモデルが
目的(object)ではなく方法だからだ。
シナジェティクスの包括的な思考は、理性によって獲得される最高の概念に対して
もっとも直観的にかつ物理的に到達できる方法をもたらしてきた。
この方法は科学で一般にいわれているような基礎と応用という産業化を
強要する社会的使命からも自由であるばかりか、
表現者独自の自己実現要求を魅了させる概念と絶縁していながら、
物理的な変換方法に拘束される条件でさえもっとも自由な思考を展開できる。

そして、テンセグリティは<自然を模倣しない>思考に共鳴した
史上初の構造原理として発見されたのである。

バックミンスター・フラーはこうした思考のプロセスから生まれる新たな実在を
アーティファクト(artifact)と呼んでいた。
分断された幾何学と芸術を統合するのは幾何学でも芸術でもない。分断する方法は、
可逆的に統合する方法にはならなかった。
そればかりか予測できない統合作用によって
かつての目的(object)さえも陳腐化され否定されるのである。

統合する方法は、物質を非物質化するための過程(=エフェメラリゼーション)を
記憶した人工物に変換される。

テンセグリティ・シェルター

テンセグリティ・シェルター

THE NORTH FACE × +81 インタビュー

等方ベクトルマトリックス

天球上の全方向からほぼ等方的につねに観測されるマイクロ波がある。
これが宇宙背景放射(cosmic background radiation)である。
この放射はかなり高い精度で等方的である。
等方的すぎて、ありふれていたから発見が遅れたのである。
しかし、この宇宙背景放射の発見から、
宇宙は球状であることと観測範囲の極限が球状であることとは
同じではないことも分かった。

宇宙背景放射の発見の背景は、
空間充填の階層構造的な等方ベクトルマトリックスの発見が、
ギリシア時代ではなく、1944年以後のバックミンスター・フラーの
発見まで待たなければならなかった背景と類似している。

双対の正4面体duo-tetに始まり、
ベクトル平衡体から階層構造的な等方ベクトルマトリックスまでは
量子モジュールを介在させれば理解できる。