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千年後の構造

テンセグリティ構造は、千年後でさえ究極の構造体である。
原子核構造がテンセグリティ構造を採用しているかぎり。

現代建築の構造がテンセグリティシステムを採用しないかぎり、
自然の構造でもない構造は構造でさえもあり得ないのである。

テンセグリティにおける再分割化の無限性

張力材は、断面の直径と長さの相対的な比において、長さが無制限である。
これはテンセグリティ以前の前提条件である。
テンセグリティ構造の分割数を数倍に増加させていくと、
構造全体の長さの増加に対する相対的な重量が急速に減少しはじめる。

テンセグリティの場合、分割数が大きければ大きいほど、
張力材が構造物全体に占める割合が大きくなる。

さらに、各張力材自体の分割数を増加させると、
つまり、各張力材は複数の繊維に分割された後の張力材を構成する繊維は、
単位重量・単位断面積あたりの強度が飛躍的に増加しているのである。

合金におけるシナジー作用と、テンセグリティにおけるこのシナジー的作用は、
前世紀では同じ原理として理解されなかった。
この証明は『コズモグラフィー』(バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社 2007)
によってはじめてなされた。

張力材と圧縮材から構成されるテンセグリティ構造は、
合金を構成する非視覚的な金属原子とは違って、
視覚的存在でありながら互いに非鏡像的な構成要素だったからである。

テンセグリティモデルの作り方

テンセグリティは柔軟な強度を備えている。
だからといって張力材がエラスティックにはデザインできない。

テンセグリティがボールのように弾むのは張力材の弾性力からではない。
圧縮材との相互作用はエラスティックな張力材によって著しく損なわれる。
テンセグリティモデルは原理的に作らなければならない。

張力材にゴムなどの代用品を使用したテンセグリティは非原理的だ。
張力材には可能な限り伸度がない物質を使用すべきである。
特にステンレスワイヤーなどは前世紀の遺物だ。

備考
Tensegritoy(USA)などはテンセグリティの概念を教育する教材のなかでは
もっとも有害な商品だ。

相補性モデル

テンセグリティという構造の形態から、
閉じた有限のシステムを包括する連続的な張力機能であり、
不連続な圧縮材の局所的な圧縮機能ではないという構造原理を学ぶことができる。
張力と圧縮力という非鏡像的な関係が相補的に存在する。

部分から全体は予測できないが、
全体が最初に与えられた場合、どの部分の機能も予測できない。

しかし、この相補性を物質に置換したテンセグリティは
稀有な原子核モデルである。

リダンダンシー(冗長度あるいは安全係数)からの脱出

大きな災害がある毎に、リダンダンシーの確保は
不可欠なテクノロジーとして考察されている。

自然は、酸化作用のないテクノロジーから脱出するための
煙のより少ない煙突を改善するよりも
煙突が不要なテクノロジーを用意しているように、
自然が構造をつねに非固体的に形成しているのは
リダンダンシーを非物質化するためである。

リダンダンシーを理論的に完全に排除できたのは
テンセグリティ原理の発見以後だ。

リダンダンシーの開発コストと構造体の全重量を増加させるテクノロジーは
時代遅れである。

テンセグリティと重力

テンセグリティを圧縮材よりも張力材をより多く使って
構造化するほうが、統合力はシナジー的に飛躍する。
これは、個別の結合力の増加を意味しない。

直径数キロメートルのテンセグリティ球は
ほとんどが張力材である。
だからテンセグリティは太陽光だけで
大気圏に浮遊できるのである。
(NASAは大気圏内を宇宙空間に含めなかった)

自然はすでに重力を断面積がゼロの張力材にデザインしている。

数学的自然からテンセグリティは生まれた

柔構造は五重塔をモデルとして考案されたらしい。
心柱が他の構造体と接していないという共鳴型構造が耐震性能を生む。

圧縮材をすべて非接触にすれば、
最大の柔構造になる共鳴型テンセグリティの原理の発見プロセスには、
自然の観察は関与しなかった。
自然や人工物を模倣しない唯一の方法は、観察を放棄することだ。
観察対象は観察者がそれまでに習得した概念で観察されるにすぎない。

バックミンスター・フラーの数学的自然観を理解すると、
葉の緑を重んじるエコロジーが局所的なビジョンに見える。

『宇宙船地球号操縦マニュアル』(1962)には
驚くことにエコロジーという言葉は一回も使われなかった。

社会化された自然に数学的自然が含まれたことはないのである。

分節化(articulation)の学習

テンセグリティの発見によって
構造から圧縮力と張力という純粋な機能は初めて分離された。

バックミンスター・フラーはtwonessという相補性への分節化から、
宇宙のテクノロジーの稀有な視覚化に成功したのである。

しかし、テンセグリティの構成要素である圧縮材と張力材を個別に観察しても、
統合に関するいっさいの情報は存在していなかったのである。

分節化は統合化の過程で発見されるメタフィジクスへの優れた操作主義である。

バックミンスター・フラーはアインシュタインから学んだ操作主義によって
具体性に置き換える誤謬から逃れている。

この事実は、この半世紀間、すべての建築家が
テンセグリティ原理を建築テクノロジーに置き換えることに
失敗してきたことよりも重要なことである。

2007年度から始まったシナジェティクス入門講座の主題は、
講座のテキストである『コズモグラフィー』という思考の幾何学は
読書のみによってはとうてい理解できないことを学ぶことでもある。

サーバー技術によって非同時的に、そして遠隔地を結ぶ同時的な学習ネットワークは、
思考の幾何学の最適な学習環境にちがいない。

経験を秩序化する思考の幾何学は、はじまったばかりだ。

テンセグリティ・ジオデシック構造の歴史

ジオデシックドームの歴史を見ると、
バックミンスター・フラーはダイマクション・ハウスの
プロトタイプの制作直後に
大円モデルとテンセグリティモデルの発見を経験しながら
ジオデシック数学への移行まで数年間を要している。

さらに、テンセグリティ・ジオデシック構造の完成までは
バックミンスター・フラーでさえ最長の17年間を要している。

現在、ノースフェイス社のテント構造に短期的に滞在する以外、
テンセグリティ・ジオデシック構造に誰も住んでいないのは
テンセグリティ・ジオデシック理論と実践をマスターした個人は
バックミンスター・フラー以外にいなかったからである。

もっとも経済的な個人のためのテンセグリティ・ジオデシック構造が
実現されるまでデザインサイエンスは不在である。
個人によるクリティカル・パス方法の成果はまだ証明されていない。

シナジェティクスの翻訳・註釈プロジェクト開始

シナジェティクス入門講座生への最終講義を終えた。
理解のプリセッションは名状しがたいイメージを伴う。
講座生は6ヶ月間のキャンパスのないデスクトップ上での
(つまり机上の)思考実験から、
予測的に必要とされるピクチャーを描き始めた。

第2期生による遠隔地を結んだ
シナジェティクスの独自の翻訳・註釈プロジェクトが開始された。
この加速する平行移動は、スカイプの分散型ネットワークの支援によって
自発的に発生した企てである。

シナジェティクスほど自立的な知としての「翻訳学」が求められることは稀である。
モデリングと概念との結合作業において、
シンタックスとセマンティックの相互変換と統合の試行錯誤を経て、
言語学の下位概念ではない「翻訳テクノロジー」が形成される。
(「思考を声に出す」過程のすべてはオーディオ・ハイジャックされ、
ダウンロード可能なクロノファイルは
もっとも優れた自己のテクノロジーの一部となった。)

バックミンスター・フラーの遺作となった『コズモグラフィー』が
シナジェティクス入門書ではなく
シナジェティクス原論であったように、
この翻訳・註釈プロジェクトで形成される翻訳学は、
モデル言語を含めた註釈学となる可能性がある。
どんなに複雑なリンクも一筆書きの変形だ。
どのルートも2度通過すれば、つまり相互作用すればどこにでも行けるトポロジーだ。
われわれは距離を超越するためには交差点(=ノード)を増やすことを躊躇しない。

これらの自己のテクノロジーによって、
彼らはもう一つの「宇宙船地球号」に帰還できるだろう。
そして、外部から見たこの「宇宙船地球号」は、
かつて英語圏内からでも観察できなかった
新たなメタフィジクスの外観を備えているにちがいない。
晩年のバックミンスター・フラーがアジアに頻繁に停泊していた歴史的理由かもしれない。

講座生たちがシナジェティクスを読破する前に、
「宇宙船地球号」に降り立とうとしていることは記念すべき方法である。
経験の後の知の探査によって、情報量を劇的に節約できるからだ。

それは統合の関係数を増大させる明白なプロセスかもしれない。
インターネットによるシナジェティクス教育は、
どんな建築よりも本質的にテンセグリティ構造に接近している。