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テンセグリティの懐胎期間

バックミンスター・フラーが1949年から開発したジオデシックス理論は、
圧縮力を基本とした構造エンジニアリングを放棄し、
張力を圧縮力と統合するエンジニアリングに挑戦した結果生まれている。

それこそがテンセグリティの懐胎期間に重なるのであるが
その経緯はあまり知られていない。

バックミンスター・フラー以外に誰も個人住居に対して
テンセグリティ原理を応用する可能性に
挑戦して来なかった歴史に関係するだろう。

単位体積あたりの重量をより軽量にするための
ジオデシックス数学を創始すると同時に、
絶えざる構造実験によって、
1954年には構造の強度と剛性を飛躍的に向上させる
テンセグリティ理論を最初のジオデシック構造の特許に応用している。

テンセグリティは比類ないオブジェの
輝きでこの半世紀が過ぎている。

基礎部を必要としない純粋に自律するテンセグリティ構造は
まだどこにも存在しない。

シナジェティクス研究所 梶川泰司

恐怖心によって安全率は最大になる

ジオデシック構造は適切にデザインされているとは限らない。
従来の構造力学は、荷重を分散しない結晶質でできた柱や梁の圧縮力のみを
考察の対象とする法律的な基準でジオデシック構造を分析してきた。
これまで製作されたジオデシック・ドームの多くは、
その強度が、航空科学が採用した適切な安全率をはるかに超えるリダンダンシーを採用する。

建築家は航空科学者の3倍の安全率で顧客に安全を約束する。

テクノロジーに関する無知が増すにつれて、
無意味な恐怖心の裏返しである安全率が大きくなるのは、
安全率に比例してリダンダンシーも大きくなる一方で、
荷重を分散する自由度を狭めていくからである。

過剰な重量を抱え込む構造こそ死の危険を増大させコストを上昇させる。

テンセグリティにおいては
無意味な恐怖心の裏返しである安全率は最大になる。

大地から自律したテンセグリティ構造は
テンセグリティモデル以外にまだどこにも存在していない。

テンセグリティの破壊実験

コンピュータシミュレーションは
模擬実験の手法である。
科学的な構造計算の信頼性は
原寸大モデルの破壊実験からのみ確立されてきた。

その原寸大の破壊実験から
テンセグリティの<安全率>は
最新のコンピュータシミュレーションによる
構造計算値よりも小さいことが分かるだろう。

連続したテンションネットワークの統合作用がもたらす
<未知なる補償作用>のために
重さの増加を伴わないリダンダンシーが増加する度合いは
圧縮材のみから構成されたジオデシック構造よりも大きい。

テンセグリティ球においては
単位体積あたりの重量増加と強度の増加は
明らかに半径の増大に反比例する。

テンセグリティの破壊実験において
もっとも困難なことは
テンション材が連続し、圧縮材が非連続で、
大地から完全に自律した純粋な原寸大のテンセグリティ構造を
経済的に短時間に制作できないことにある。

とりわけ、テンション材の張力調整にターンバックルを使用する場合の
アセンブル方法は正確さと軽量化において未だに絶望的である。

参照
「失われていく過程について」
犬のしっぽブログ http://two-pictures.net/mtstatic/

細長比(Slenderness ratio)からの離脱 その1

細長比(Slenderness ratio)からの離脱 その1

外力または自重による
あらゆる種類の圧縮材の変形はやがて
圧縮材の固有な細長比(=Slenderness ratio,圧縮材の断面の直径と長さとの比)
の限界を超えると、その構造材は坐屈するばかりか
構造の深刻な全体的な破壊は加速度的に進行する。

テンセグリティにおいては
圧縮材の細長比が引き起こすこのような坐屈へのリスクは皆無である。
なぜなら、細長比の限界を超えないように
圧縮材の直径に対する長さが調節可能になり
すべての圧縮材は不連続に形成できるからだ。

圧縮材を不連続にすれば、それらは同時的にかつ非同時的に
絶えず振動するようになる。

概念と非存在について

テンセグリティに面は存在しない。

隕石の中からバックミンスター・フラーレンが発見されたが
面はついにイマジナリーであった。

宇宙に多面体は存在しない。

テンセグリティ球には面はなく
張力で囲まれた無数の窓が存在する。 
数えられる無(nothingness)として。       

梶川泰司

270 struts-tensegrity  by RBF

シナジーの視覚化

付加すべき機能がなくなったばかりか
排除する機能もなくなった状態から
突如シナジー的に形成される外力分散機能とは
構造の動的平衡の完璧な視覚化である。

テンセグリティにおける
最小限の2つの現実とは
互いに分離され出会うことのない張力材と圧縮材である。

統合する意志がないかぎり
永遠にそれぞれの現実に属している。 梶川泰司

Universe as “A Minimum of Two Pictures”:
Evolution as a transformation of nonsimultaneous events:
the behavior of “Universe” can only be shown with a minimum of two pictures.
Unity is plural and at minimum two.
(Drawings courtesy Mallory Pearce)

分割数(frequency)とは何か

「半分の長さは倍の長さに等しい」というdualityの法則は
ジオデシックス理論ではfrequency理論から創出される
シナジー原理そのものである。

半径を増大させる時、ジオデシックテンセグリティ構造を
構成する部材は、より細く薄くなり(=けっして相対的ではなく)、
単位体積当たりの構造体の重量は、加速度的に軽量化される。

ただし、分割数の増加と共に半径も比例して増大するならば。

角度と振動数について

巨大地震に対抗するために構造物に対して構造安定志向が生まれた。
免震、耐震、制振といった機能は通常の構造物には存在しない。

施工の複雑な「免震」や高価なダンパー装置を付加する「制震」は、
「耐震」と比べると建築構造物の場合はさらに高コストになる。

しかし、免震、耐震、制振であれ
基本的には大地に依存し大地にエネルギーを流し込む構造安定志向は、
実際には恐怖と無秩序の原因となっている。

テンセグリティ構造は本質的に共振するメカニズムをもっている。
テンセグリティは共振によって外力分散機能を形成する自然の構造システムである。
そのためのいっさいの付加的装置を排除してデザインされる。

テンセグリティ構造をデザインすることは
形態のデザインではなく
角度と振動数の調整を意味する。

航空機は高速飛行中に受ける気流と衝突で発生する種々の振動に対して
免震や耐震そして制振のための付加装置が存在しない最初の人工物である。

航空機の機体や翼が固体的ではなく柔軟な強度でデザインされているように
住宅も、地上に一時的に停泊しているより軽量で剛性の高い機体(=動く自律的シェルター)
としてデザインすべきである。

☆図版解説
テンセグリティは穴だらけの内圧のないバルーンである。
もっとも経済的なニューマッチクである。 梶川泰司

Synergetics (Fig. 761.02 Function of a Balloon as a Porous Network.)
R. Buckminster Fuller

反・骨格

構造に関する<デザインの基礎>も<デザインの骨格>などの概念も
人類が固体的な圧縮から住居を築き上げた経験が何万年も成功した結果
圧縮材のみから構成される概念の慣性力から生まれた残像である。
それは網膜に焼き付いている過去の思考形態である。

張力に関する概念の歴史は
陸ではなく文字文化を持たない海の民によって継続されてきた
ほとんど重さを形成しない方法(=Trimtab)の歴史である。

テンセグリティに全体的破壊が存在しないのはなぜか。

テンセグリティに基礎は存在しない
そして
テンセグリティに骨格は存在しないから。