<動く生産ライン>———デザインサイエンス序説1

船舶を生産するデザイナーは、各国のドッグで移動しながら生産する最初の生産ラインを発明した。
現代の自動車の生産ラインは、地上に固定されているように見える。
しかし、陸路の流通経路を各部品が流れることによって、
船舶の動く生産ラインのように相対的に<動く生産ライン>を形成してきた。
そして現代のオンデマンドにみられるように、
すべてが移動しながらアセンブルできる陸路、海路、空路による生産ラインに転換されつつある。
流通経路を支配する組織は、衛星ネット上で個々の注文を受けながら、
トラックという動く分散型倉庫から直接販売店に配送するまでの輸送システムを持っている。
これらは、動く生産ラインの変形システムである。
生産も消費も、動く閉じた柔軟な関係、つまり流体地理学的な世界観を急速に形成している。
そして教育と労働だけが、毎日同じ場所への通学と通勤を余儀なくさせられている。
これは21世紀に継続された反流動的で固体的な世界観である。  
<犬のしっぽブログ 梶川泰司 2007年1月29日 から全文引用 >

その後6年間が経過している。

テンセグリティシェルターは
その本質的なより少ないより軽量な構造部材によって
家庭やスタジオから24時間繋がる
動く生産ライン(バックミンスター・フラーの時代にはまだ未発達であった)によって、
その開発力と生産力は
より少ないエネルギーでより加速されている。

テンセグリティの懐胎期間3

さらにバックミンスター・フラーが
この最初のジオデシックドームの発明において
すでにテンセグリティ理論を応用し
構造を張力によって統合するジオデシック・テンセグリティ理論を確立した事実を
われわれがジオデシックドームの起源に包含させて認識することができたのは彼の死後である。

ジオデシック・テンセグリティの構造の複雑さよりも
その統合性の純粋さに到達するための動的な構造の単純化を理解したいならば
テンセグリティ理論から理解するジオデシックス理論とその歴史的評価を
半世紀以上も遅らせた21世紀の超専門分化された専門家レベルの理解に求めてはいけない。

テンセグリティは
よりプリミティブな構造デザインの探求から獲得されたのではなく
希有な科学的原理として発見された。

この科学原理が
あたらなテンセグリティ構造との統合を繰り返し
同時にテンセグリティ・エンジニアリングへの精緻さと優美さによって
テンセグリティ構造を経済的に量産する段階にいるのである。

テンセグリティの懐胎期間2

つまり、ジオデシックドームはテンセグリティ原理の応用として発明されたのである。
テンセグリティ構造はジオデシックドームよりも先行している。

ーーー1821年にマイケル・ファラディ(Michael Faraday)が、
最初の電動機(モーター)を発明によって
1831年に自ら電磁誘導の法則を発見し
その原理を使った最初の発電機(dynamoダイナモ)が
1832年に発明されたようにーーーーー

同時に、彼が構造をテンセグリティ原理の発見によって定義するまで、
構造の定義が存在していなかった歴史的事実を
われわれはこの最初のジオデシックスの特許明細書から知ることになるのであるが
この認識には、バックミンスター・フラーでさえ、
1927年に最初のテンセグリティ構造を発見して
ジオデシックス数学と統合するまでに27年の懐胎期間を必要としている。

テンセグリティの懐胎期間

バックミンスター・フラーが1949年から開発したジオデシックス理論は、
圧縮力を基本とした構造エンジニアリングを放棄し、
張力を圧縮力と統合するエンジニアリングに挑戦した結果生まれている。

それこそがテンセグリティの懐胎期間に重なるのであるが
その経緯はあまり知られていない。

バックミンスター・フラー以外に誰も個人住居に対して
テンセグリティ原理を応用する可能性に
挑戦して来なかった歴史に関係するだろう。

単位体積あたりの重量をより軽量にするための
ジオデシックス数学を創始すると同時に、
絶えざる構造実験によって、
1954年には構造の強度と剛性を飛躍的に向上させる
テンセグリティ理論を最初のジオデシック構造の特許に応用している。

テンセグリティは比類ないオブジェの
輝きでこの半世紀が過ぎている。

基礎部を必要としない純粋に自律するテンセグリティ構造は
まだどこにも存在しない。

シナジェティクス研究所 梶川泰司

私とシナジェティクス数学

視覚化を伴わない抽象的な数学では
計算法は重要である。

盲人を偽装したゲームでは計算法は不可欠である。

彼らはこれまで盲人を偽装したゲームで
独占的な利益を稼いできた。

シナジェティクスは
つねに視覚化を伴った数学的な自然を探査してきた。

盲人を偽装したゲーム世界では
シナジェティクスモデルは
誰にも見えないことになっている。

いつも計算はその発見の後だから。

梶川泰司

恐怖心によって安全率は最大になる

ジオデシック構造は適切にデザインされているとは限らない。
従来の構造力学は、荷重を分散しない結晶質でできた柱や梁の圧縮力のみを
考察の対象とする法律的な基準でジオデシック構造を分析してきた。
これまで製作されたジオデシック・ドームの多くは、
その強度が、航空科学が採用した適切な安全率をはるかに超えるリダンダンシーを採用する。

建築家は航空科学者の3倍の安全率で顧客に安全を約束する。

テクノロジーに関する無知が増すにつれて、
無意味な恐怖心の裏返しである安全率が大きくなるのは、
安全率に比例してリダンダンシーも大きくなる一方で、
荷重を分散する自由度を狭めていくからである。

過剰な重量を抱え込む構造こそ死の危険を増大させコストを上昇させる。

テンセグリティにおいては
無意味な恐怖心の裏返しである安全率は最大になる。

大地から自律したテンセグリティ構造は
テンセグリティモデル以外にまだどこにも存在していない。

モジュール

モジュールは人工物だけではない。

自然は量子というモジュールを
エネルギーに対して利用している。

その量子間が整数比で表されるまでに
システムを単純化したのである。

シナジェティクスは
自然の種々のモジュールを発見してきた。

シナジェティクスモジュールの発見ーーーアップルホワイトへの手紙 

『成長する正20面体』梶川泰司 ,「サイエンス」1990年9月号  
(サイエンティフィック・アメリカン日本語版)

正十二面体を分割して作った10種のモジュールを放射対称的に再構成していくと,
正十二面体,正二十面体などさまざまな5回対称多面体が現れる。

ーーーー世界初の準結晶構造システム(=Icomatrix)の解明とその成長過程のアニメーション
Kajikawa to Applewhite

Kajikawa to Applewhite 1991

Icosahedron Dissection

By Yasushi Kajikawa

球系エアロダイナミクス

都市の建築構造物は
バイオスフィの内陸部や極地に
適応できなかった。

それは、地球人口は70億人となったが
バイオスフィアの海岸線から隔たった
内陸部の都市人口が過密にならなかった理由の一つだろう。

過酷な地理的条件下でも
(たとえば、ブリザードの吹き荒れる南極のような極地にでさえ)
テンセグリティは自律的構造を再現できる。

航空機のような
張力による高度な鋭敏性を備えたテンセグリティこそが
望みの場所に短期間に
モバイル可能な空間を設営できるのである。

より少ない素材からもっとも安全な空間を
繰り返しアセンブルできるのは
全天候タイプのモバイル・テンセグリティの基本性能である。

大地に構造の強度と剛性を依存しないばかりか
構造の基礎部を持たない、
それゆえに
超軽量な構造体の自重をさらに自身の<浮力>で軽減できるのは
テンセグリティ構造だけである。

テンセグリティは
大地に係留された
翼のない浮遊機械であり
そして、スクリューのない推進装置であり
根を生やさない太陽の受光体なのである。

流動する球状大気圏に対して
球系エアロダイナミクスは
外力分散ネットワークによる動的な均衡を
絶えず自動更新している。

複製されたデザインサイエンス

デザインサイエンスは
エンジニアリングやテクノロジーの応用だけではない。
あるいは、計画やデザイン以上のものである。

デザインサイエンスは生産過程だけではなく、
研究開発から製品の生産とその分配、つまり全世界的なサービスシステムに
に関する全体的な現実化のための計画(=クリティカルパス)とその責任を含む。

21世紀のグローバリズムは
搾取と支配による圧倒的な他者の犠牲と環境の破壊を伴わなければ
1927年に創始されたデザインサイエンスの概念を
忠実に複製していることになる。

バックミンスター・フラーのデザインサイエンスは
土地資本主義からも金融資本主義からも
そして共産主義からも生まれなかったのである。