テンセグリティ構造に関する間違った見解 その1

建築家は構造を扱う。
テンセグリティは構造体である。
したがって、建築家はテンセグリティを構造として公式に発言する機会が増えている。

ある石油会社のサイト(http://www2.cosmo-oil.co.jp/terre/09/01-02.html))に
以下の引用のようなテンセグリティの解説がある。

「シナジーの働きが具体的に目で見られる例としては、テンセグリティという構造システムがあります。
名称は「テンショナル・インテグリティ(張力による統合)」の略で、
圧縮材として働く複数の棒と、張材として働くゴムひもを組み合わせたものです。
棒はそれぞれ触れ合っていないのに、ゴムひもの張力(テンション)によって結びついて、
立体を作ることができる。6本の棒があれば、4つの正三角形からなる正四面体(テトラ)を作ることができます。
このシステムでできた構造体は、正三角形の形としての安定性も加わって、
上から落とされてもびくともしません。」
(下線部はこのサイトの<「宇宙船地球号」という概念を創出した科学者 バックミンスター・フラー>から引用
このS氏の解説には、テンセグリティシステムの説明で基本的な間違いは2カ所ある。
この間違った理解は最近のサイトを見る限り、かなり一般化しつつある誤解である。

1.ゴムひもの張力(テンション)によって結びついている。
2.上から落とされてもびくともしない。

1は、張力について基本的な条件が全く検討されていない。
ゴムひものようなエラスティックな素材からは、テンセグリティ構造を構成できない。
ゴムひものテンセグリティを床に落下させてもほとんどバウンドできないのは、
2点間距離を一定に維持する機能が、損なわれて、圧縮材が互いに接触することになる。
ゴムのテンセグリティモデルは動力学的に安定していない。

同じ理由から、テンセグリティトイ( tensegritoy)は、
90年代のバックミンスター・フラー研究所でも販売されていたが
科学的に間違った素材からデザインされた商品である。
(こうした批判から、本質的なテンセグリティ教材は
現在シナジェティクス研究所が主体となってデザインしている。)

2は、応力分散システムの機能について全く無知である。
テンセグリティは振動する共鳴型の構造である。
(実際、びくともしないのではなく、常にびくびくしている生きたシステムを構成している。)

正しいモデリングから容易に観察できるテンセグリティの真のシナジー効果に関して、
科学的記述を期待したい。
国内以外のこうした建築家の発言を、サイトや出版物から引用して、
このブログを含めた私の今後の出版物などで、あえて彼らの重大な間違いを指摘する理由は、
do more lessの究極の構造システムのであるテンセグリティ構造システムの可能性を
個人の有用性に還元しなければならない情況にいると感じるからである。

テンセグリティの導入は、次世代建築システムの最優先課題ではなく、
個人の生存にとって最優先課題の一つである。
自分の間違いから学ぶことはできるが、他人の繰り返される同じ間違いからも自らの理解を再検討できる。