遠近法を破壊せよと言った

体験可能な仮想空間の構築を目的とした現代のバーチャル・リアリティは、
可能性を前提にしている。
1950年代のM.C.エッシャー芸術のテーマである「非現実」は、
不可能性に根ざしている。
エッシャーの不可能性をテーマにした作品群は、
すべて体験不可能な空間の構築をめざしていた。
しかし、人工的な現実感の構築にも、
エッシャーの「非現実」的な不可能性の構築にも遠近法が関与している。

同時に、エッシャーの遠近法は
従来の遠近法が生み出すリアリティを利用して
遠近法は生得的なものではなく、
システムへ順応するための学習によって
形成されることを作品によって証明している。

古代ギリシアの曲面遠近法から
「視覚のピラミッドの切断面」の透明な窓から透かして
対象物を見るという平面遠近法の原理を発見したルネッサンス期を経て、
紛れもなく史上3回目の遠近法の変革時に属しているのである。
遠近法がもっぱら宗教芸術により
新しい幻想的な領域を構築する自然な視空間を求めた歴史からみれば、
この暗黒時代からの夜明けは
エッシャーが生涯無神論者であったことに関係している。

エッシャーの遠近法はだまし絵のための技法ではない。
順応システムを強化するための
遠近法を破壊せよと言っているのである。

この意味論的な解析は、
シナジェティクスの全方位的な幾何学的思考によってのみ明確にされるだろう。
つまり、
2次元的な平面に3次元的なリアリティを生み出す遠近法は
特殊で過渡期的にしか存在しないのである。

そして、この鏡像反転による遠近法の破壊方法
(参照 超遠近法で解くエッシャーの秘密」 アニメーション)に
エッシャーは全く気づいていなかった。

エッシャーは鏡像反転による遠近法(=超遠近法の発見–操作的な軸回転遠近法)
とは別の方法をアーティスト・サイエンティストとして
直観的にかつ経験的に構築したことは、
それらは、現存するスケッチや習作などの時系列的履歴から証明可能である。

http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0701/escher.html
http://synergetics.jp/gallery/index.html

☆参照
「超遠近法で解くエッシャーの秘密」 アニメーション公開
http://synergetics.jp/escher/index.html