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テンセグリティの懐胎期間

テンセグリティ原理が発見されるまで
圧縮力と張力の分離は
<構造とパターン>を問わず、いずれも構造の破壊行為とみなされた。

バックミンスター・フラーによる
初期の圧縮力と張力を分離し、統合する独創的な実験方法は、
酸素という不可視の気体元素の存在を証明する実験方法;

スズと空気を密閉した容器を加熱しても全体の重さに変化がないばかりか、
開封すると外気が流れる現象から、空気の一部が減少すると同時に
スズ自体が重くなっていることを証明し、従来のフロギストン説を葬り去った
ラヴォアジエの1777年の卓越した実験方法
と比較しても見劣りしないだろう。

つまり、見えない張力機能は圧縮材から<分離>することによって、
不連続な圧縮材を<統合>しているのである。

新たなテクノロジーの現実化を評価する
専門分化された科学者の理解よりも
さらに遅れて科学史は形成される。

21世紀の科学史で
テンセグリティ原理の発見がまだ扱われていないのは
テンセグリティの技術的な懐胎期間が
科学・産業史上最長になっていると考えるべきだ。

テンセグリティはより包括的なシナジェティクスによって
なおも未知な領域を残している。

Tensegrity & Integrity

テンセグリティ(tensegrity)の恐るべき誠実さ(=integrity)とは
構造的、数学的、経済的に、どんなに優れた構造とパターンを築こうとも
製作者の内なる意識が統合的に宇宙的に秩序だっていないかぎり
その無秩序さが外部の圧縮力との張力調和を
無残にも圧倒してしまうことにある。

シナジェティクスにおけるエンジニアリングとは
誠実さの内部化なのである。
あるいは、
内部に起源を生む(=engine)行為そのものである。

My initial harvest of mathematical structures produced by this new conceptual tool was a family of four Tensegrity masts characterized by vertical side-faces of three, four, five and six each, respectively. The three and four sided masts consisted of discontinuous compression islands of tetrahedronal strut groups mounted only in tension one above the other, while the five and six sided masts consisted of local islands of icosahedronal and octahedronal strut groups mounted vertically above one another, again only by tensional connectors. 
by R. Buckminster Fuller 1961

シナジェティクスと数学

モデル言語を排除したモデリングは堕落した工作であるが
形態的再現を目的としたテンセグリティモデルが
圧縮力と張力の構造的言語に変換できるとは限らない。

例えば、
ゴム紐やステンレスワイヤーなどをテンション材にした疑似張力モデルは
2点間距離を縮めるとテンセグリティ球の直径が増大する
テンセグリティ独自の相互作用を再現できない。

モデル言語の発見は
概念の物質化として現れるだけではなく
真のモデリングは<モデル化の可能性>を潜めている。

なぜなら、シナジェティクスモデルは
製作者と観察者の意図を超えて
新たな概念をすでにそのモデルが
物質化している可能性があるからである。

シナジェティクスのモデル言語には数学が含まれる。
その数学こそ、動的な相互作用を形成する<構造とパターン>を扱う。

725.02 Transformation of Six-Strut Tensegrity Structures: RBF

テンセグリティのモデル言語

圧縮材が互いに不連続になっている
テンセグリティ球の2頂点間距離を収縮させると
テンセグリティ球の半径は増大する。

この斥力作用を説明するモデル言語を
静的な幾何学に求めてはいけない。
まして、数千年間も支配しづけてきた
固体的な構造力学に期待してはいけない。

圧縮材がつねに
張力材をより押し拡げるのではなく
張力材をより引き寄せる機能は
テンセグリティ構造以外では形成できない。

もし、制作したテンセグリティモデルで
その機能が確認できなければ
テンセグリティのデザインが不完全であるばかりか
モデル言語が製作者に形成できていないのである。

                  梶川泰司

“Synergetics” fig.712 RBF