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テンセグリティ構造の死と再生

テンセグリティ構造が現状維持する場合は、つねに振動する。
応力分散や外力分散機能に費やされるエネルギーが
構造自体を強化しているのである。

水分が樹木の無数の木部組織の細い導管を通過することによって、
構造にとって有用な圧縮機能を強化しているように、
樹幹の支持機能を形成する木部繊維だけが機械強度を維持しているのではない。

そして、導管が樹皮のすぐ下の外周にそって密集しているのは、
幹の表面に張力機能を形成するためである。

葉からの毛細管現象がなくなり、細い導管からも水流が止まるとき、
つまり、テンセグリティ構造が静止するときは、構造の死を意味する。

木は枯れると折れやすくなる。
水はすぐれた再生的な張力材なのである。

構造化とは何か2ーーテンセグリティの機能

鳥は飛行するための美しい構造を持っている。
しかし、歩くときは実用的ではない。

美しければ実用的ではないし、
実用的であればきっと美しくない
これまでの専門分化した人工物の構造と違って、
テンセグリティ構造は、人間のデザインしたシステムではない。

原子核構造が理想的かつ経済的であるように、
テンセグリティ構造は、発見された究極の構造システムである。

酸素または水素自体の性質のなかに、水の性質はいっさい存在しない。
それぞれの気体が2対1で化学反応する条件が発見されたにすぎないように、
圧縮材と張力材とのシナジー作用が発生する条件は発見されたが、
なぜ作用するかは神秘に属する。

化合物としての水の性能は、
たとえば固体、液体、気体に変容する以外にも数百種類も発見されている。
現在も未知なる化合物である。

テンセグリティ構造の再現のためのデザイン過程には、
経験的な包括的理解のみによって、
圧縮材と張力材とのシナジー作用を予測する能力とその実験が要求される。

それは、合金を発見する科学者のような方法論に近いだろう。
合金の生成は形態デザインには含まれない。
言い換えれば、人間が物質をデザインできる可能性は
複数の原理間の調和以外、ほとんど存在しないことを理解することになるだろう。

構造化とは何かーーテンセグリティの機能

構造とは、自律的であることである。
船舶や航空機は構造である。
そして、真の構造とは浮かぶ機能を備えている。

しかし、テンセグリティ以外のこれまでの構造は、
大地に基礎部を固定させ、自重や応力を逃がしてきた。

大気圏内でテンセグリティ以外の構造は浮遊できないだろう。
自重や応力は逃がすのではなく、
分散することで、より構造を強化する機能は
シナジー的に形成される。

テンセグリティへの構造化は、論理的に予測不可能な性能が
かろうじてデザインされる希有な人工物である。

テンセグリティ構造

ジオデシックドームは、三角形だけでは構成されていない。
半球状のジオデシックは、半球の切断面は、多角形である。
ゆえに、赤道付近は不安定である。

半球状のジオデシック・テンセグリティは、
いつまでも未完成な半球状のジオデシックと違って、
閉じていなくとも安定している唯一の構造である。

張力による三角形化は全方向で機能している。

5回回転対称性

インフルエンザは、大気圏を浮遊して移動するための
最適なシェルターの形態を選ぶ場合、
正20面体の5回回転対称性に注目したが、
われわれは、とりわけ住居に関して、
その回転対称性は不合理で不経済だと考えているのはなぜだろうか。

「丸い家は効率が悪い」と思わされているのは
これまで全人類のほとんどが、
沿岸部の都市に密集して定住してきたからかもしれない。

国家にとって、密集して住めば税収奪はもっとも効果的になる。

生物であるなら、
5回回転対称性の自己複製のテクノロジーによって、
球状惑星を移動することで種族を保存する戦略に無関心ではいられない。

反転したテンセグリティ構造=Inside-out

バイオスフィアは環境自体を内部化した。
半径6300キロの惑星に対して、
わずか10キロメートルの厚みの同心球状の大気圏によって。

細胞では細胞内部に張力が包含されているが、
テンセグリティシェルターでは、つねに張力は外部に現れる。

テンセグリティシェルターは、内部を完全に空洞化するために、
内部を外部化した環境を形成するために、
反転(Inside-out)した構造をもっている。

人間の筋肉という張力もまた、
蟹のように内部化された張力をもった甲殻類とは異なっている。
骨という圧縮材は内部化されている。
肺呼吸のための大きな空洞が必要だったからである。

テンセグリティは最初から、垂直な無柱の空洞構造として、
ジオデシック理論よりも前に発見されている。

この事実はもっとも誤解されている原理の発見の順序である。
ジオデシック構造は、テンセグリティ構造の特殊解である。
ジオデシック構造では、圧縮力と張力の機能はまだ分離されていない。

安全性と軽量化は、この機能の分離から生まれる。

デザインサイエンスの戦略

理論的なアイデアをもつに止まらず、
それを実行しなければならない。
それが真の戦略である。

どんな理論的なアイデアも
ハードウエアに結晶化できる。

あるいは、
ハードウエアを介在させることによって、
最終的に主要な機能を不可視にまで変換できる。

自然がそうしているように。

デルス・ウザーラ

最悪のことを考えて、
なおもポジティブでクリティカルに行動するデルス・ウザーラは、
バックミンスター・フラーのデザインサイエンスの包括的な方法と重なる。

最悪とは、もっとも包括的な想像力で描かれる。
専門家は最悪のことは、苦手だ。

最悪の情況は、同時的かつ非同時的に、
そして連続的かつ断続的に
生成され、その経路は最長になる。

デルス・ウザーラは、タイガの森で生き延びた猟師として演じられたが、
彼の先祖はロシア沿岸部をカヤック(=バイダルカ)で移動する海の民だった。

それゆえに、20世紀最初の張力を応用した最初の正4面体状の軽量シェルターをデザインできたのだろう。
このシェルターの軽量と分解機能は、
最悪の情況を回避するための最重要な機能の一つだ。

そして、デルスは誰よりも(つまり、軍隊よりも)天然素材を含む
既製品を利用する包括的な知恵に長けていた実在の人物である。

木工技術

もっとも創造的な木工技術は、一本の樹木自体に備わっている。
無数の葉を受光させるために枝を水平に伸ばすには、
大枝の幹の部分には数トンの圧縮力と張力がかかる。
そして、葉脈まで水分を循環補給させるための導管は、
水で満たされた圧縮機能と同時に、
木質素からなる側壁の曲げに対する張力機能を形成している。

水と導管は強度の向上をコントロールする主要構造要素である。

多くの人々は材木を利用した構造物に住んでいるが、
強度と柔軟性が調和しないので、
大地震でほとんど倒壊してしまう。
自然の木工技術を模倣できていないのである。

成長しながらも維持される樹の強度と柔軟性を、
物事にも適応させることは、
圧縮力と張力の分離と統合に関する
一般化されたテンセグリティ技術である。

ブナの木

ブナの木

ブナの葉は、一日1トン以上の水分を蒸発させる。

エコ移動式住居

大地震が来るたびにモービルホームの生産は開始されるが、
大恐慌が来る前に、生産を開始する必要性に関して
バックミンスター・フラー以上の予測はこの30年間存在しなかった。

移動式住宅の生産にこそは、
地産地消が不可能なメタボリック・デザインが効果的である。
移動可能な住居こそが、エコ住宅である。

「・・・・人工物デザイン計画の優先順位で
世界的電力ネットワーク統合の次にくるのは、
当面は地理的に固定されている世界中の人間の活動のための、
物理的環境を制御する装置である。

人間の活動は、自動車、バス、鉄道、航空機、衛星といった
迅速に移動する環境制御人工物とは対照的に、固定されているのである。
都市の超高層ビルは静止して見えるので、
それらの部品がすべて遠隔地から輸送されてきており、
また、そういった部品と素材の多くは製造とその組み立ての過程で
何度も相互に輸送を繰り返している事実に気づいている人はあまりいない。

1980年の時点で、アメリカの平均的家庭は3年ごとに住んでいた町を出て、
新しい場所へ転居した。彼らがそうするのは主として、
移動した工場やオフィス、そして新しい空港やショッピングセンターが
もたらす地域生活の利便性に合わせて、
人間の生産機能を再調整するためである。

私が移動式住居について語るとき、それはショッピングトレーラーや
テントを指しているのではなく、
長期にわたって地理的に固定しておくこともできるが、
どんな距離でも広い範囲を容易に、
そして経済的に輸送でき再設置可能な住
居のことを指している。」

『クリティカル・パス』第10章から引用
バックミンスター・フラー著 梶川泰司訳 白揚社2004