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テンセグリティ原理について

これまで間違ってバックミンスター・フラーの言質とされてきた
19世紀的な還元主義の<Think global, Act local.>は、
人間だけのうぬぼれた同時的な行動パータンに陥りやすく、
他の部分と分断され孤立し、最終的に支配されやすくなるのである。

<Think global, Act local.>は、
非構造的であり、モデリング不可能である。
そして、構造の安定化にはほど遠くシンタックスの乏しい命令形である。

本質的にゴムバンドのような弾性的ではないテンション材によって
テンセグリティ・モデルを構成した場合、
圧縮材と張力材の各部材間のすべての相互作用をみれば、
次のことは明確に理解可能である。

すべての部分は、それぞれ他の部分に非同時的に作用している。

あるいは、全体を変えることなくしてどんな部分も変化しない。

バックミンスター・フラーならこういったに違いない。
<Nothing can change locally without changing everything else.>

偉大な誤差論

E=MC2はこれまで不可視の構造であった。
シナジェティクスモデルはこの構造を可視化した。
バックミンスター・フラーは、 demass modelを発見している。
『コズモググラフィー /シナジェティクス原論』 (バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社 2007)
には言及されなかったが、シナジェティクスを最初に学ぶモデルとして、
フラーはこのEモジュールから始めることを推奨している。

コンピュータによる15桁の計算と、それを忠実に作図化する CADの精度によって、
demass modelを再現する過程に夢中になっていた1990年、
私はついに5回対称性のある無限成長する空間充填システムを発見した。

この発見は直ちにアップルホワイト氏に報告され、
その論文は、『成長する正20面体』(『サイエンス』日本版サイエンティフィックアメリカン 1990)
に発表された。

黄金比が介在する体積比をもった10種のモジュールだけで
原子核の殻モデルのような階層構造を形成しながら、
核の存在と核構造における殻の周期を明らかにした。
この10種のモジュールはすべてプラトンの正20面体から導かれる。
分割とは増殖を意味する。

demass modelを理解すれば、バックミンスター・フラーの真の偉大さが理解できるだろう。
幾何学と物理学の新たな世界像は、デスクトップから起動できる。

More with Less

大きなものは、リダンダンシーによって崩壊し、
小さなものものは、More with Lessによって成長する。
この場合、More with Lessは、経済的な節約法ではない。
無駄を排除する自然の機能である。

振動

物質とエネルギーが互いに作用し、
より秩序の高い状態になる現象に振動がある。
例えば、原子は絶対零度においても静止することなく振動している。
(ヘリウムは絶対零度近傍でも振動する。)
結晶質では格子振動となる。
こうした零点振動や格子振動はテンセグリティ構造が原因である。

テンセグリティ構造は、
周囲の環境と共存した状態を形成するために
つねに振動するシステムである。
自然は振動というmore with lessを採用する。
振動は構造をつねに軽量化すると考えられる。

そして人々が住居に
無振動の静止的な固体的建築を望んでいるかぎり、
周囲の環境と共存する非平衡系の
真のエコロジー的解決策には到達しないだろう。

(続)プライムデザイナー

資本主義のプライムデザイナーは、
議会ではなく、
科学者や建築家、そしてデザイナーでもない。
決定権をもった裕福な私企業である。
彼らの目的はこの惑星の資源を独占し人類に消費させることである。
有限なものは独占可能だからだ。

宇宙は最初のプライムデザイナーである。
原理群はその成果物であり、
人類による発見は無限だから独占不可能である。

腐敗や陳腐化のない永遠のデザインに気づいたならば、
クライアントである地球人はやがて、
惑星地球に派遣された最初のプライムデザイナーを
雇用するにちがいない。

プライムデザイナー

細胞膜という概念よりも前に顕微鏡が発明されたが
最初に細胞をスケッチした科学者は
最初の細胞学者にはなれなかった。
見えている通りに客観的にスケッチしても
概念がなければ、発見は証明できなかったのである。

概念は道具によって証明できるが、道具よりも早く形成できる。

われわれの細胞もテンセグリティから構成されている。
しかし、顕微鏡で細胞がテンセグリティであることを証明する科学者は
1980年代の初期までいなかった。
バックミンスター・フラーは、
細胞がテンセグリティであることを知る
30年前にテンセグリティ構造とその概念を発見している。

バックミンスター・フラーは
こうした芸術家・科学者(アーティスト・サイエンティスト)たちを
プライムデザイナーと呼んでいる。

シナジェティクスとデザインサイエンス

科学の原理を理解するためには、よい教師がいる。
シナジェティクスの原理を理解するためには、よいモデルがいる。
しかし、シナジェティクスを応用するためには
経験に基づいた知恵がいる。

誰も解決策は買えないようにデザインされている。
それが、デザインサイエンスである。

炭素繊維とテンセグリティ・マスト

マクロ宇宙もミクロ宇宙をも認識できる人間が、
この4面体である炭素からなる構造システムを
生存するための住居として対象化することは、
自分を最大の有限な外部から見るもっともプリミティブな行為である。

このテンセグリティシェルターのプロトタイプの主要な2つの構造材は、
圧縮材が炭素繊維をプラスチックで強化した薄板材であり、
引張材が炭素繊維ロープから構成される。
しかし、このテンセグリティシェルターの圧縮材は、
連続した引張材のようにカーボンの薄板材を連続して球状に構成している。
カーボン材は剛性も強度があるが、薄板材の場合は本来曲がりやすい性質も利用できる
(シャトルの円筒ボディの補強や橋脚の耐震対策に利用されてきた)。

新たにシェルターという人工物として、圧縮材を連続させた
ネオ・ジオデシックスの4分割パターンを採用したが、各構造材の分子構造システムは、
連続的な相互の張力と不連続な圧縮力からなる。
黒鉛結晶質として原子の配列が安定しているためである。

その黒鉛結晶質でさえ、非連続な圧縮材からなるテンセグリティ・マストで説明できる。
炭素繊維が、4面体状テンセグリティ・マストを構築する方法と
まったく同じように生成されている可能性は高い。
テンセグリティ・マストこそは、規則的な構造に従って生産できる、
最強かつ最軽量の柱である。

マクロ宇宙もミクロ宇宙も常に、
連続的な相互の張力と不連続な圧縮力のみが組織化する構造システムである。

シナジェティクス研究所
梶川泰司(デザインサイエンティスト)

4面体からなるテンセグリティ・マスト

4面体からなるテンセグリティ・マスト

4面体からなるテンセグリティ・マスト:解説 バックミンスター・フラー

「テンセグリティ・マストを構成する各ストラットは、
4面体からなるテンセグリティ・マストの構成要素となり、
さらにミクロなマストであるそのストラットも、
4面体からなるテンセグリティ・マストで構成される。
これらの過程は原子レベルの極小規模に到達するまで繰り返され、
さらに原子の内部構造は、不連続な圧縮力と連続的な張力で構成されているのである。
テンセグリティ・マストの構造原理は、素材の単位重量あたりの強度を比較した場合、
なぜ炭素繊維の強度が、微量の炭素を含む構造材用の鋼鉄の12倍、
そして最も強いアルミニウム合金の4倍にもなるかを証明している。」
(『コズモグラフィー』バックミンスター・フラー著 梶川泰司訳 白揚社2007)