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プライム・デザイン

シェルター(住居)とは、
物理的な大きさ、経済性、耐久性、安全性に関する
人間の唯一最大の要求にちがいない。
にもかかわらず、科学的な配慮は後回しにされてきた。

構造を科学的に解決したならば、
都市は、これほど非経済的で醜い建物で
覆われていなかっただろう。

蒸気機関から燃料電池までの
あるいは、
ライト兄弟の複葉機からジャンボジェット機までの
1世紀間に蓄積された包括的な解決法を住居に転用すれば、
人間の唯一最大の要求に応えることができるだろう。

住居の軽量化と電子化は、
不況にあえぐ自動車産業と航空機産業が担うだろう。

移動する量産型自律的シェルターは、プライム・デザインの対象である。
さもなくば、
建築家が個別にデザインする高額な土地付き住居は、
つねにサブ・プライムの対象になるだろう。

テンセグリティの振動数(frequency)

30本の圧縮材からなるテンセグリティ球の各張力材に
ターンバックルを使用し、そのターンバックルを回転させて
すべての張力材に徐々に張力を増加させていく場合、
弦楽器の弦のように張力材を弾く毎に、
弦が発する音はより高音になっていく。

そして、ついにわれわれの聴覚では聞き取れないほどの音域に達する。
この段階を体験すれば、だれでもテンセグリティ球が
柔軟さのない剛体(rigidness)を形成していると感じるだろう。

言い換えれば、剛性のある構造は、
冗長度(redundancy)からではなく、
聴覚的に変換できないほどの超高振動数(frequency)によって形成される。

基底状態にある原子の発する光が、
特定の振動数のみに限られるのは、同じ理由からである。

そして住宅は、この剛性を木材やコンクリートや鉄に求めてきたが
それはつまり、振動を打ち消すことを
補強材という冗長度に求めてきたからである。

自然は構造に補強材を使用しない。
自然は構造に振動数を利用する。

非物質化(エフェメラリゼーション)

移動するには、
結合と分解の機能が予めデザインされなければならない。
92の元素のように平均的な分布は、
非人格的(デフォルト的)に実現されていく。

人間も
移動させないテクノロジーよりも
自由に移動するテクノロジーによって、
真の富を獲得してきた。

単位あたりの重量が、
より軽量化される傾向が達成されてきたのは偶然ではない。
より統合化された機能は、非物質化された不可視の富である。

住宅はいまでも人々を移動させない
時代遅れのテクノロジーによって可視的にデザインされている。

テンセグリティ原理について

これまで間違ってバックミンスター・フラーの言質とされてきた
19世紀的な還元主義の<Think global, Act local.>は、
人間だけのうぬぼれた同時的な行動パータンに陥りやすく、
他の部分と分断され孤立し、最終的に支配されやすくなるのである。

<Think global, Act local.>は、
非構造的であり、モデリング不可能である。
そして、構造の安定化にはほど遠くシンタックスの乏しい命令形である。

本質的にゴムバンドのような弾性的ではないテンション材によって
テンセグリティ・モデルを構成した場合、
圧縮材と張力材の各部材間のすべての相互作用をみれば、
次のことは明確に理解可能である。

すべての部分は、それぞれ他の部分に非同時的に作用している。

あるいは、全体を変えることなくしてどんな部分も変化しない。

バックミンスター・フラーならこういったに違いない。
<Nothing can change locally without changing everything else.>

偉大な誤差論

E=MC2はこれまで不可視の構造であった。
シナジェティクスモデルはこの構造を可視化した。
バックミンスター・フラーは、 demass modelを発見している。
『コズモググラフィー /シナジェティクス原論』 (バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社 2007)
には言及されなかったが、シナジェティクスを最初に学ぶモデルとして、
フラーはこのEモジュールから始めることを推奨している。

コンピュータによる15桁の計算と、それを忠実に作図化する CADの精度によって、
demass modelを再現する過程に夢中になっていた1990年、
私はついに5回対称性のある無限成長する空間充填システムを発見した。

この発見は直ちにアップルホワイト氏に報告され、
その論文は、『成長する正20面体』(『サイエンス』日本版サイエンティフィックアメリカン 1990)
に発表された。

黄金比が介在する体積比をもった10種のモジュールだけで
原子核の殻モデルのような階層構造を形成しながら、
核の存在と核構造における殻の周期を明らかにした。
この10種のモジュールはすべてプラトンの正20面体から導かれる。
分割とは増殖を意味する。

demass modelを理解すれば、バックミンスター・フラーの真の偉大さが理解できるだろう。
幾何学と物理学の新たな世界像は、デスクトップから起動できる。

More with Less

大きなものは、リダンダンシーによって崩壊し、
小さなものものは、More with Lessによって成長する。
この場合、More with Lessは、経済的な節約法ではない。
無駄を排除する自然の機能である。

振動

物質とエネルギーが互いに作用し、
より秩序の高い状態になる現象に振動がある。
例えば、原子は絶対零度においても静止することなく振動している。
(ヘリウムは絶対零度近傍でも振動する。)
結晶質では格子振動となる。
こうした零点振動や格子振動はテンセグリティ構造が原因である。

テンセグリティ構造は、
周囲の環境と共存した状態を形成するために
つねに振動するシステムである。
自然は振動というmore with lessを採用する。
振動は構造をつねに軽量化すると考えられる。

そして人々が住居に
無振動の静止的な固体的建築を望んでいるかぎり、
周囲の環境と共存する非平衡系の
真のエコロジー的解決策には到達しないだろう。

(続)プライムデザイナー

資本主義のプライムデザイナーは、
議会ではなく、
科学者や建築家、そしてデザイナーでもない。
決定権をもった裕福な私企業である。
彼らの目的はこの惑星の資源を独占し人類に消費させることである。
有限なものは独占可能だからだ。

宇宙は最初のプライムデザイナーである。
原理群はその成果物であり、
人類による発見は無限だから独占不可能である。

腐敗や陳腐化のない永遠のデザインに気づいたならば、
クライアントである地球人はやがて、
惑星地球に派遣された最初のプライムデザイナーを
雇用するにちがいない。