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『クリティカル・パス』再考 経済危機に直面して

この秋に経済危機の実態が具体化する前に
『クリティカル・パス―宇宙船地球号のデザインサイエンス革命 」
(バックミンスター・フラー著 梶川泰司訳、白揚社 2007)
から今回の危機をどう捉えるかに関連した、
30年前のバックミンスター・フラーの思考を敷衍して再び予測してみたい。

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私の著書『宇宙船「地球号」操縦マニュアル』
(EP ダットン、1963年)を読めば、富という現実を
私がどう位置づけているかが理解してもらえるだろう。
富は、(物質や放射という)フィジカルなエネルギーが、
メタフィジカルな目的認識と技術認識(ノウハウ)に結びついてできる。
科学者たちは、宇宙のどんなフィジカルなエネルギーも失われることはないことを
明らかにした。

つまり、宇宙全体として見れば、富を物理的に
構成しているものは減らないのである。
われわれは、目的意識(ノウワット)と技術的知識(ノウハウ)
というメタフィジカルな富を使うごとに、
さらに多くを学ぶことを経験から知っている。
経験は増す一方である。

ゆえに、富を構成するメタフィジカルな部分は増加する一方であり、
したがって統合された富全体もやはり増加の一途をたどることになる。
包括的に情報を与えられるワールドゲームの観点からすると、
お金を使って金儲けをするお金というのは本来、
富の交換手段でしかない方法を学んだ人たちは、
お金から本当の富と同じ不変の働きを完全に切断してしまったことになる。
金に金を生ませる連中と彼らのための経済学者たちは、
この地球は人間の生活を支えていくには根本的に不十分であるという
政治宗教界全体の仮説を、彼らのマネーゲームに利用しているのである。
こうしてお金で利益をあげるのは間違っている。

なぜなら、
(A)新しい合金の単位あたり(1ポンドあたり)の強度はたえず増加し続けており、
(B)飛行機のエンジンの単位あたり(1立方インチ及び1ポンドあたり)
の馬力はたえず上昇し、さらに
(C)新しい化学やエレクトロニクスの1立方インチ及び1ポンドあたりの
機能がたえず上昇し続けているので、われわれにはすでに全般にわたって
かつて誰も経験したことも夢に見たこともなかったような高い生活水準を
つくりだし維持していく能力があり、
しかも10年以内に完全にその能力が実現されるからである。
これは意見でも希望でもなく、技術的に証明可能な事実である。
すでに証明されているテクノロジーと、すでに採掘され精錬され
再循環している物質的な資源だけで実現することができるのである。
それは、すべての人間とそれにつづくすべての世代にとって、
本質的に持続可能な物質的成功をもたらすだろう。
10年以内に達成できるというだけでなく、すべての化石燃料や原子力エネルギー
の使用の段階的かつ恒久的廃止をもたらす。

われわれの技術的戦略からすれば、太陽の放射と重力が日々もたらす
エネルギー収入だけで、すべての人が贅沢に暮らせることに議論の余地はない。
放射として毎分地球に到達する宇宙エネルギーの富の物理的な量は、
すべての人類が1年間に使うエネルギーの総量よりもはるかに多いのである。
ワールドゲームは、真の富で計算すると40億人
(訳注1980年現在の世界人口で)の億万長者が地球上に存在することを
極めて明確に示している。

こうした事実は、勝手にでっちあげた諸権利で操作されているマネーゲームと、
その独占的な信用システムの会計学によって覆い隠され、
一般の人々には知られていない。
富とは、汎宇宙的に作用して天体から放射されてくる一定の自然エネルギーの収入だけを、次のように使う人間の組織化された能力と技術的知識(ノウハウ)にほかならない。

すなわち、かくも多くの人間がこれから迎える長い日々の生活に、
(1)保護、(2)快適さ、(3)滋養をもたらし、
(4)人間にまだ利用されていない知的・審美的能力の蓄えを
さらに発展させる環境を整備し(5)一方ではたえず束縛を取り除き、
(6)また一方では情報を増やしてくれる経験の幅と深さを増大させる
ことによって予想したとおりに対処していく能力とノウハウ、
それこそが富なのである。
全人類の成功は、技術的要求にかなった地球規模の包括的デザイン革命
によってのみ成し遂げられる。

この革命は、そのエネルギー利用効率を誘因として人類が
自発的に人工物を選定すること、社会的経済的に望ましくないものの見方、
習慣、慣例などを惜しみなく放棄し、永遠にそれらを陳腐化させるような人工物を
開発することでなければならない。

『クリティカル・パス』 第6章 ワールドゲーム から引用

シナジェティクス・モデルによる対称性の破れ

『クリティカル・パス  宇宙船地球号のデザインサイエンス革命』新装版
(バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社、2007)には、
バックミンスター・フラーの短いが難解なシナジェティクスから引用した序文がある。

「従来のクリティカル・パスの概念は、直線的であり、
それ自体十分な情報を与えてくれない。
球状に拡大収縮し、軸回転し、極方向に伸開線的—縮閉線的な軌道システムからの
フィードバックだけが包括的にかつ鋭敏に情報を与えてくれる。
球状軌道的なクリティカル・フィードバック回路は、脈動して周期的な吸収放出を繰り返す。
クリティカル・パスの原理的要素は、
平面上で互いに重なり合う直線的な構成要素を単位としない。
それらは、汎-相関的に再生しつづけるフィードバック回路が、
システマティックに互いに螺旋を形成しあっている複合体なのである。」
(『シナジェティクス第二巻[改訂版]』から)

この球状軌道的なクリティカル・フィードバック回路に関する、
動力学的なシナジェティクス・モデルは存在する。
その実在するモデルから、フラーはつねにモデル言語によって記述していることがわかる。

そして、私はこのモデル言語を敷衍する他のシナジェティクス・モデル群を発見したことで、
偶然にもアメリカで『クリティカル・パス』が出版された直後から、
2年間にわたって新たなシナジェティクス原理の発見プロセスを
バックミンスター・フラーと共有することになったのである。

そしてこのフィードバック回路には予想外の原理が潜んでいた。

その研究論文は、『コズモグラフィー シナジェティクス原論』
(バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社、2007)
の補遺に記載されたシナジェティクス・モデルによる<対称性の破れ>の発見に
発展したのである。

物理学では到達できなかった対称性の破れのモデル言語は、
ついに視覚化されたのである。

3つのテクノロジー

個人を国家の税収奪や企業のアブノックスな労働から自由にするのは、
無管、無柱、無線の3つのテクノロジーである。

しかし、バックミンスター・フラーのデザインサイエンスを学ばなければ、
これらのテクノロジーを統合した状態で理解するのは困難だ。
たとえば、ダイマクシオン・ハウスは、最初の量産型金属住宅だけではない。

日本ではやっと今月から衛星インターネットのサービスが開始された。
(光ファイバーでさえ19世紀の概念で成立している。)

もちろん、このサービスを提供するのは、日本の通信企業体ではない。

連絡先
タイコム株式会社
http://www.ipstar.com/japan/jp/

環境とデザインサイエンス

「生活は継続的に環境を変化させ、変化させられた環境が今度は、
生活の可能性、現実性、課題を変化させる。
環境は、人間にとって外在的で発明によってのみ実現される代謝再生的有機体の、
非同時発生的でありながら、全面的に統合されている変化の複合体を包含している。RBF」
『クリティカル・パス』第4章 バックミンスター・フラー著 梶川泰司訳
白揚社 2007

バックミンスター・フラーはこの代謝再生的有機体を、産業化の過程と関連づけている。
この産業化の過程を、「一面的な利益のために生産力を利用する
金儲けのためのビジネスと見なして矮小化させない。」(同上)
のはデザインサイエンスに限ったことではない。

金融資本主義と協調したコングロマリット(複合企業体)と
軍産複合体が主導した産業化の様々な設備投資は、
国家や株主ではない大多数の地球人が支払ってきたのだから。

デザインサイエンスの包括的な視点は、『クリティカル・パス』と
『シナジェティクス』から学ぶことができる。

参照
『コズモグラフィー シナジェティクス原論』(白揚社  2007)は、
フラー自身の遺作となったシナジェティクスの解説書である。

プライム・デザイン

シェルター(住居)とは、
物理的な大きさ、経済性、耐久性、安全性に関する
人間の唯一最大の要求にちがいない。
にもかかわらず、科学的な配慮は後回しにされてきた。

構造を科学的に解決したならば、
都市は、これほど非経済的で醜い建物で
覆われていなかっただろう。

蒸気機関から燃料電池までの
あるいは、
ライト兄弟の複葉機からジャンボジェット機までの
1世紀間に蓄積された包括的な解決法を住居に転用すれば、
人間の唯一最大の要求に応えることができるだろう。

住居の軽量化と電子化は、
不況にあえぐ自動車産業と航空機産業が担うだろう。

移動する量産型自律的シェルターは、プライム・デザインの対象である。
さもなくば、
建築家が個別にデザインする高額な土地付き住居は、
つねにサブ・プライムの対象になるだろう。

炭素繊維とテンセグリティ・マスト

マクロ宇宙もミクロ宇宙をも認識できる人間が、
この4面体である炭素からなる構造システムを
生存するための住居として対象化することは、
自分を最大の有限な外部から見るもっともプリミティブな行為である。

このテンセグリティシェルターのプロトタイプの主要な2つの構造材は、
圧縮材が炭素繊維をプラスチックで強化した薄板材であり、
引張材が炭素繊維ロープから構成される。
しかし、このテンセグリティシェルターの圧縮材は、
連続した引張材のようにカーボンの薄板材を連続して球状に構成している。
カーボン材は剛性も強度があるが、薄板材の場合は本来曲がりやすい性質も利用できる
(シャトルの円筒ボディの補強や橋脚の耐震対策に利用されてきた)。

新たにシェルターという人工物として、圧縮材を連続させた
ネオ・ジオデシックスの4分割パターンを採用したが、各構造材の分子構造システムは、
連続的な相互の張力と不連続な圧縮力からなる。
黒鉛結晶質として原子の配列が安定しているためである。

その黒鉛結晶質でさえ、非連続な圧縮材からなるテンセグリティ・マストで説明できる。
炭素繊維が、4面体状テンセグリティ・マストを構築する方法と
まったく同じように生成されている可能性は高い。
テンセグリティ・マストこそは、規則的な構造に従って生産できる、
最強かつ最軽量の柱である。

マクロ宇宙もミクロ宇宙も常に、
連続的な相互の張力と不連続な圧縮力のみが組織化する構造システムである。

シナジェティクス研究所
梶川泰司(デザインサイエンティスト)

4面体からなるテンセグリティ・マスト

4面体からなるテンセグリティ・マスト

4面体からなるテンセグリティ・マスト:解説 バックミンスター・フラー

「テンセグリティ・マストを構成する各ストラットは、
4面体からなるテンセグリティ・マストの構成要素となり、
さらにミクロなマストであるそのストラットも、
4面体からなるテンセグリティ・マストで構成される。
これらの過程は原子レベルの極小規模に到達するまで繰り返され、
さらに原子の内部構造は、不連続な圧縮力と連続的な張力で構成されているのである。
テンセグリティ・マストの構造原理は、素材の単位重量あたりの強度を比較した場合、
なぜ炭素繊維の強度が、微量の炭素を含む構造材用の鋼鉄の12倍、
そして最も強いアルミニウム合金の4倍にもなるかを証明している。」
(『コズモグラフィー』バックミンスター・フラー著 梶川泰司訳 白揚社2007)

デザインサイエンスにとって緊急時とは何か

デザインサイエンスにとって緊急時とは何か
市場のデザインには市場の意見が反映される。
一度の災害で何万人が命を落としても、市場はいつもと変わらない。
(軍隊以外が緊急時のためのテクノロジーにお金を使う習慣はない。)

緊急時は市場ではないので、ピアノの蓋(反響板)は、
もっとも高価で重い救命具としてデザインされる。
ピアノの蓋に対して、
その希少性ゆえに偶然の巡り合わせで生き延びる方法以外を望んではいけない。

デザインサイエンスは緊急時を待たない。
デザインサイエンスは、緊急時のためのテクノロジーに備えるのはなく
目的論的テクノロジーに自発的に対処する。

自発性こそは、緊急時の道具に包括的なデザインが反映される唯一の方法である。

共鳴型と非共鳴型テンセグリティ

構造がある形態を維持しているのは、
閉じた有限のシステムを包括する連続的な張力機能によるのであり、
不連続で局所的な圧縮機能によってではない。

さらに、この形態からリダンダンシーをすべて排除した場合が
共鳴型のテンセグリティ構造である。

圧縮機能を連続させ、張力機能を非連続にした非共鳴型テンセグリティは
高い振動数でしか共鳴しない。
そして、外力の分散機能は著しく低下する。

しかし、通常の建物が、低い振動数(振幅は数m、周期は数十秒)の巨大地震で
ゆっくりと確実に破壊されるのは
自重を大地に流すようにしかデザインされていないからだ。

盗まれたノウハウ

「抽象的な〈存在〉である有限責任の企業には、その不可視の全体が国境を越えて移動するときパスポートは要らない。
第二次世界大戦後まもなく、アメリカで最も大きな数百の企業は超国家企業となり、アメリカの産業として誕生していたこれらの企業に対する不可視の法的な支配力をすべての〈ノウハウ〉と共にアメリカ国外へ持ち出した。

このノウハウはもともと、当初はアメリカ国防総省やマンハッタン計画または宇宙計画だけのために開発される基本的なテクノロジーへの出資を、戦時 に備える政府が負担したことで、アメリカ国民が初期投資をしたのだが、政府の(つまりわれわれの出費で戦時に獲得されたこのノウハウは後に〈平時〉の〈産 業効率〉のために私企業に無料で委譲された。」バックミンスター・フラー『グランチの起源』近刊 (抄訳 梶川泰司+黒野迅)

第二次世界大戦後の世界中の庶民が月々に支払う基本料のほとんどはこの過去に開発され持ち出されたノウハウだ。超国家企業の法律家資本主義者たちは歴史的無料化を防止するためのファイヤーウォールを、グローバリゼーションと呼んでいる。

人力居住機械

炭素繊維を使った複合材の構造とマイラーの皮膜から構成された史上初の
翼長二十九メートルの人力飛行機は二十キログラムの重量しかなかった。
それは1979年の記録だ。

地球温暖化に適応したシェルターを金属でデザインしようが
再生的なプラスティックでデザインしようが、
分解・移動できない固体的住居は時代遅れである。

半永久的に個人が居住できるモバイル用シェルターが、
人間の平均体重よりも軽くできる構造は
原理的にテンセグリティ・ジオデシック構造しか存在しない。

人力飛行機の設計のように、
この人力居住機械はハンドメイドで十分だ。
なぜなら、必要な道具と素材はすべて生産されているからだ。