デザインサイエンス(バックミンスター・フラー)」カテゴリーアーカイブ

デザインサイエンスの包括的思考

私は、たいていバックミンスター・フラーの直弟子と紹介される。
私は彼の最晩年の2年間のシナジェティクスの共同研究者である。

直弟子とは本来宗教的な徒弟関係を意味するdirect discipleである。
彼の信者はアメリカでも日本でも確かににいるけれど、
彼らがシナジェティクスの新しい研究に挑戦する姿を見たことはない。

バックミンスター・フラーのデザインサイエンスに
概念と原理の徒弟制度は存在しない。
そして、包括的思考にアジア的な徒弟制度は受容的すぎるだろう。
direct discipleは人間の直線的関係である。

包括的思考には他者との対話(direct dialog)が不可欠だ。
2点間距離のジオデシックな最短軌道である。
それは直線的ではない。

不都合なエコロジーたちーーーiPadという小さなTrimtab

パソコンにもリダンダンシーがある。

IT革命に付随する無数のリダンダンシーを排除するには
2つのテクノロジーがいる。

他者とのコミュニケーションを介した仕事の道具(Trimtab)によって
環境により適応するためのテクノロジーと
PCから過剰なCPUと機能を排除する決断力だ。
どちらも産業的なテクノロジーよりも
自己のテクノロジーに関係するだろう。

iPadは、同時的かつ非同時的な宇宙の出来事の受容器になるだろう。

新聞や雑誌という紙媒体がなくなるのは
もっとも効果的なエコロジーであるが、
メディアには不都合なエコロジーだった。

包括的教育プログラム

翻訳は、日本語として美しければ忠実とはいえない。
原文に忠実であれば、美しくない。

そのどちらかで決着がつかなかった場合
原著者に矛盾があるか、
訳者の日本語力に問題があるかのどちらかだったが、
バックミンスター・フラーの翻訳に関しては
新しい不足が発生した。

1970年代、バックミンスター・フラーは
難解だと最初の翻訳者が言い始めた。
シナジェティクスは英語力の問題ではなかった。
シナジェティクスを理解していなかったのがその原因だ。

シナジェティクスを理解するためのmore with lessは
シナジェティクスモデルの再現を経験することだ。

かつてのバックミンスター・フラーの翻訳者たちが
ベクトル平衡体モデルもテンセグリティモデルも
再現していなかった。
主要な概念を忠実に日本語化することは
ほとんど不可能だったに違いない。

実際、過去に出版された2冊の『宇宙船地球号操縦マニュアル』の翻訳においても、
概念の日本語化はまだ未完成であるし、
『テトラスクロール』や『ダイマクションの世界』に至っては
シナジェティクスの概念の翻訳は無残である。
そればかりか、『テトラスクロール』では原文の重要な概念を
意図的に省略して訳されている。

モデル言語力の不足は、決定的なメタフィジックスの欠如を意味している。

モデル言語力の習得を効果的にするプログラムは
包括的教育プログラムである。
つまり、現在の知的産業社会のもっとも弱点とする教育プログラムである。

元素の存在比(ワールドゲーム理論のデフォルト)

太陽は地球と同じ元素の存在比をもっている。
地球に存在する元素の割合は太陽でも同じである。
そればかりか、
宇宙における元素の存在比はどこでも同じである。

この発見は、
われわれの資源もエネルギーも
人口比で分布させるべきであるという
バックミンスター・フラーの経済理論(反法律家資本主義)を説明するだろう。

インターネットによるシナジェティクス講座では
バックミンスター・フラーの死後この30年間に
計画されたワールドゲーム理論のデフォルト
の矮小化と抹殺の歴史を批判する。

重力とテンセグリティ

テンセグリティに誰でも惹かれるのは
重力に逆らっているのではなく、
別の引力を利用しているからだ。
引力とは、他の質量から受ける万有引力である。

しかし、重力も引力も同じ張力だ。
われわれはもっとも軽い存在(質量0、電荷0、寿命無限大)によって
統合される存在なのだ。

万有引力は、「二つの物体間に働く引力であり、
その二つの間の距離とそれぞれの物体に応じて働く力」である。
「引力を生じるのは物体に質量がある」という物理学の再帰的な論理から
脱出できるばかりか、
テンセグリティはその質量欠損の起源にも関与しているだろう。

なぜなら、原子核が陽子と電子だけではないように、
テンセグリティは棒とひもではないからだ。

テンセグリティ島

雲がある場所の下には島がある。
島には植物がある。
植物の上には雲ができる。

クリスマス島はすべて珊瑚礁でできている。
雨が降れば、地下浸透して
淡水は比重が軽いから、
海水の上にレンズ状に浮いている。
クリスマス島のすべての水は浮遊する。

水が浮遊すれば、人間が住める島になる。

テンセグリティ島も空気に比べて
比重が軽いから、
大気中を球状で浮遊することができる。

浮かぶテンセグリティの内部には
オクテットトラスの島(=都市)ができる。
そこには植物が茂り、ふたたび雲ができるだろう。

そして、月にも水がある。

クリスマス島

クリスマス島

シナジェティクスの思考

数学や物理学の難解さに挑戦する科学者はますます増える。

つねに非論理的に発見された原理は、論理的にしか説明できない。
原理が単純で論理的だからだ。

テンセグリティはもっとも単純な原理の一つだ。
しかし、この原理が発見されるまでギリシアの幾何学から25世紀間もかかった理由を
論理的には説明できない。

シナジェティクスも難解なテーマに挑戦するのではなく
新しいテーマを発見するための
もっとも単純な科学的思考をもたらす21世紀のメタフィジックスだ。

シナジェティクスは
「複雑な現象を複雑なまま理解しようとする思考」から
「複雑な現象を単純な原理の複合から理解しようとする思考」への
非線形的単純系サイエンスだ。

このことは1927年からシナジェティクスが発見した原理の履歴からも
論理的に定義される。

デザインサイエンスとは何か

デザインサイエンスは、
「デザインという人間の創造的行為を理論的に説明する」ような
疑似科学性を装った自惚れたアブノックスではない。

「複数の原理を相互に調整し秩序づける行為を私はデザインと呼ぶ」 RBF 1975

自然のデザインの超越性を学ぶメタフィジックスから
生まれたデザインサイエンスは、
他の有機体生命を犠牲にすることなく、
シントロピックに保護する「可能な構造」に
変換するための絶えざる原理の発見と、
より少ない物質と時間とエネルギーによって
具現化するためのテクノロジーの統合を目指している。

シナジェティクスモデルは、
すべて「可能な構造」に変換された原理群である。
「可能な構造」こそ、もっとも抽象化された物質だ。
92種の有限な元素のように。

新たなシナジェティクス原理が発見されない
デザインサイエンスは存在しない。

デザインサイエンスの先見性と定義は、
1927年に始まるエフェメラリゼーションによって、
より加速度的に確認されている。

☆参照
『クリティカル・パス』バックミンスター・フラー著 梶川泰司 訳
(白揚社 2007)第6章 ワールドゲーム

『宇宙エコロジー  バックミンスター・フラーの直観と美 』
バックミンスター・フラー+梶川泰司 著(美術出版社 2004)

遠近法を破壊せよと言った

体験可能な仮想空間の構築を目的とした現代のバーチャル・リアリティは、
可能性を前提にしている。
1950年代のM.C.エッシャー芸術のテーマである「非現実」は、
不可能性に根ざしている。
エッシャーの不可能性をテーマにした作品群は、
すべて体験不可能な空間の構築をめざしていた。
しかし、人工的な現実感の構築にも、
エッシャーの「非現実」的な不可能性の構築にも遠近法が関与している。

同時に、エッシャーの遠近法は
従来の遠近法が生み出すリアリティを利用して
遠近法は生得的なものではなく、
システムへ順応するための学習によって
形成されることを作品によって証明している。

古代ギリシアの曲面遠近法から
「視覚のピラミッドの切断面」の透明な窓から透かして
対象物を見るという平面遠近法の原理を発見したルネッサンス期を経て、
紛れもなく史上3回目の遠近法の変革時に属しているのである。
遠近法がもっぱら宗教芸術により
新しい幻想的な領域を構築する自然な視空間を求めた歴史からみれば、
この暗黒時代からの夜明けは
エッシャーが生涯無神論者であったことに関係している。

エッシャーの遠近法はだまし絵のための技法ではない。
順応システムを強化するための
遠近法を破壊せよと言っているのである。

この意味論的な解析は、
シナジェティクスの全方位的な幾何学的思考によってのみ明確にされるだろう。
つまり、
2次元的な平面に3次元的なリアリティを生み出す遠近法は
特殊で過渡期的にしか存在しないのである。

そして、この鏡像反転による遠近法の破壊方法
(参照 超遠近法で解くエッシャーの秘密」 アニメーション)に
エッシャーは全く気づいていなかった。

エッシャーは鏡像反転による遠近法(=超遠近法の発見–操作的な軸回転遠近法)
とは別の方法をアーティスト・サイエンティストとして
直観的にかつ経験的に構築したことは、
それらは、現存するスケッチや習作などの時系列的履歴から証明可能である。

http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0701/escher.html
http://synergetics.jp/gallery/index.html

☆参照
「超遠近法で解くエッシャーの秘密」 アニメーション公開
http://synergetics.jp/escher/index.html

テンセグリティの衝撃吸収機能

衝撃吸収とは、
衝撃エネルギーを短時間に分散することである。
(衝撃エネルギーを消費することではない。
エネルギーは増えも減りもしないから。)

テンセグリテは、通常は球面状の波状振動によって、
そして、その限界を超えたより大きな外力に対しては、
部分的な自己破壊によって
衝撃のエネルギーを最大限に短時間に分散できる。

柔軟な強度は、半世紀に発見された
衝撃吸収にはもっとも効果的なテクノロジーである。