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シナジェティクスの定理とエンジニアリング

「同一点を通る2つの線は存在しない」ことは、
テンセグリティモデルを製作すれば、物理的に証明できるだろう。
テンセグリティを構成するどの圧縮材の端部は、
少なくとも3本以上の張力材が交差している。

各端部において、3本以上の張力材を一つの始点から同時に引っ張ることは不可能だ。
端を発するには3つの始点(ノット)が必要だ。

ノットには、大きさがある。
これを技術的にどのように変換できるかが、
テンセグリティジョイントのエンジニアリングだ。

またジオデシックドームのジョイントも球面上にある仮想的な各頂点を
どのように変換できるかでは同じである。

実際、重くて高価なボールジョイントから構成されないジオデシックドームでは、
三角形を構成するいくつかのフレームの中心線は、
結合のために、オリジナルの数学的な原線から移動している事実に注目できる。

シナジェティクスのエンジニアリングは、
定理と物質の操作主義から生まれる。

テンセグリティ・ロゴス

ロゴスとは、ロジスティクスの論理性にある。
万物を支配する理性は
技術的には、コミュニケーション・デザインに投影できる。
ロゴスとは、思考することであり、話すことである。

思考のロジスティクスとは、
いくつの単語がそこで使われたか。
そして、他のいくつの単語でそれが置き換えられるかだ。

テンセグリティは、
高度なコミュニケーション・デザインを実現している。

テンセグリティのロジスティクスとは、
いくつの張力という統合材がそこで使われたか。
そして、それによって他のいくつの圧縮部材が排除されたかだ。
ただし、構造の強度や機能を劣化させないで。

この現実化を思考のロジスティクスで言い換えれば、
「構造の安定化とは、不動を意味しない。
万物は安定するために互いに非接触のまま振動する。あるいは回転する。」YK

実際、高速度カメラでテンセグリティの外力分散機能を観察すれば、
局所的な振動は瞬時に球面を周回(回転)しているのがわかる。
津波が、閉じた球面上をジェット機の速度で伝播するように。

概念の牢獄

燃料電池は、電気化学反応によって電気を取り出す純粋な電池システムである。
つまり、使用する電解質は燃焼とは無関係であるが、
燃料という炎を伴う酸化作用の概念は、
なぜかシステムの名前に生き残っている。

同様に、核燃料もウランやトリウムの燃焼ではない。
原子核分裂の過程においてエネルギーを放出する物質に酸化作用は存在しない。

こうした間違った概念は、
建造物を固体的に設計し、重力を大地に流す危険な習慣に似ているだろう。
(非固体的なテンセグリティシステムには基礎部が存在しない)

構造物を石から作る歴史は、数万年も続いてきたが
炎を生活のエネルギーとして使う歴史はさらに古い。

(それゆえに、政治的な炭素排出権では、これらの概念を是正できないだろう。)

再考 人力居住機械とデザインサイエンス

炭素繊維を使った複合材の構造とマイラーの皮膜から構成された史上初の
翼長29メートルの人力飛行機は、20キログラムの重量しかなかった。
それは1979年の記録だ。

地球温暖化に適応したシェルターを、金属でデザインしようが、
再生的なプラスティックでデザインしようが、
分解・移動できない固体的住居は時代遅れである。

半永久的に個人が居住できるモバイル用シェルターが、
人間の平均体重よりも軽くできる構造は、
原理的にテンセグリティ・ジオデシック構造しか存在しない。

人力飛行機の設計のように、
この人力居住機械はハンドメイドで十分だ。
なぜなら、必要な道具と素材はすべて生産されているからだ。

21世紀の経済恐慌は、生産性の低下からではない。
(過剰な生産性を兌換紙幣が奪っているシステムに科学者や技術者は無頓着すぎるだろう)
必要なモノをデザインするためにクライアントは必要ではない時代にいる。
デザインサイエンスは再開された。

宇宙の要求に従った、
元素の平均的分布化こそ環境デザインだ。

参照
+81 シナジェティクス研究所インタビュー
http://www.plus81.com/plus/tnf/talk2_1.html

シナジーは相乗効果ではない。

水素と酸素の個別の化学的特性から、
水の存在を予測できる情報は一切存在しない。

そして、圧縮材と張力材だけの特性をみて、
誰もテンセグリティの力学的特性を想像できないならば、
シナジーは、相乗効果や共同作用ではない。

相乗効果や共同作用は、人間が実現可能な行為である。
(例えば、ビジネスなどで)

しかし、人間が模倣できるほど、
自然は、擬人化できない。

デザインサイエンスにとって、「既製品を使う」とは何か。

ーーーーシナジーの階層構造化ーーーーー

あらゆるカタログで販売されている部品が、
それらが作られた最初の目的から逸脱して、
新たな機能へと再統合される確率は、加速度的に増加している。

シュルリアリズムは、
「手術台におけるミシンとコウモリ傘との出会い」を美学理論としたが、
デザインサイエンスでは、既製品をこれまでに存在しなかった関係の発見
(技術者はしばしば用途開発という概念で説明する)によって、
諸関係の階層構造を可能な限り統合する目的論(テレオロジー)へと変容する。

新たなリアリティの生成過程に登場する「手術台とミシンとコウモリ傘」が
すべて既製品であるように、量産可能な工業製品のプロトタイプにこそ、
可能な限り既製品から構成する可能性は、
バックミンスター・フラーが1933年にダイマクシオン・カー(註)を
デザインしたとき、空力学的なボディー以外のすべての部品が
既製品として調達可能だった経験から始まった。

それから76年が経過した現在、
既製品の種類と機能は比較にならないほど増大し、
ついに自動車は家電やPCと同じ部品、
そしてソフトウェアをより共通化するようになったのである。
(住宅が高価であるかぎり、住居の共通部品化は、
もっとも遅延させられていることになるだろう。)

少なくとも、シナジェティクス研究所が
2008年に公開したテンセグリティ・シェルターのプロトタイプは、
化学的抽象物(ケミカル・アブストラクト)のシナジー、
つまりシナジーの階層構造が物質化したものである。

わずか5種類の既製品から構成されているデザインは、
超軽量化と開発コストの問題を解決する方法論を確立した結果である。

しかし、この目的論には美学理論のパラメータ化では、
とうてい到達できない計画的偶然性(プリセッション)が介在する。
あらゆるプリセッションは、論理的に生成できないが、
生成され結果は論理的に単純化されている。


1927年に発明したダイマクションカーは
ロケット・ジェットタイプの支柱構造をもち、
全方向性に対する操舵性もよく、2基のガソリンエンジンによって駆動し,
高い操縦性も兼ね備えた翼のない輸送手段の開発
(翼があるバージョンも同時にデザインされている)

テンセグリティの作り方ーーー穴だらけのニューマチック

私がシナジェティクスを学び始めた頃、
丸善の洋書で見つけたテンセグリティ・モデルの写真から直ちにその再現を試みた。
自宅のあらゆる場所に、そのコピーを貼り付けてみたが製作方法は、
すぐには見つからなかった。

それから、様々なテンセグリティのタイプと大きさ
(最大直径は1995年の直径11mの展開型テンセグリティ・シェルター)を制作してきたが、
一度もテンション材に、エラスティックなゴム材などは使用したことがない。

2点間距離を可能な限り維持できるようにデザインすることが、
テンセグリティの力学的特性をより本質的に再現できるからだ。
力学的特性とは、柔軟な強度である。
すべての固体でさえ原子間は振動している。
原子間には見えない引力がある。
引力は断面積ゼロの張力である。
これを弾性体に置換すると、柔軟な強度は失われる。
柔軟な強度は、シナジー作用である。
構成部材の物質の特性からは推測できないのである。

テンセグリティの作り方のレシピをネットからコピペしてくる場合、
シナジー作用を捉えきれない構造原理の欠陥も複製される可能性がある。

新しい情報を共有することは、
自らの動機に遭遇することよりも簡単な時代に移行した以上、
インターネットが(もちろん、YouTubeも)ない状況で試行錯誤することは、
言い換えると、何でも自分で考えるしかない状況を意図的に作り出すことは、
本質的なテンセグリティを再現することにも関係する。
テンセグリティ・モデリングは、
関係の統合性を物質的に置換する包括的な行為である。

まだ高価なポケット計算機によって、
球面三角関数が10桁まで扱えることに驚喜した時代よりも、
さらに25年もさかのぼった1949年にバックミンスター・フラーは、
テンセグリティの圧縮材の純粋な不連続性を物理的に証明した。

短命なデザインの対極に到達したテンセグリティ・モデルは、
落下しても、その落下距離の少なくとも半分程度はバウンドするはずである。
ハイテク素材で適切にデザインされた超軽量の人力飛行機が、
条件が整えば数十キロメートル以上は飛行できるように。

テンション材がゴム材から構成されないかぎり、
ボールの球面を覆う皮膜素材の総重量よりも、
テンセグリティの構造材の総重量の方が、相対的に軽量に、かつ内部をより高圧にできる。
だから、テンセグリティはボール以上にボールのように弾む。
テンセグリティは、穴だらけのバーストしない
最初の空気皮膜構造体(ニューマチック)である。

したがって、テンセグリティが繊細で壊れやすく見え、実際に壊れる場合は、
テンセグリティ・モデルの構造原理の理解とその製作方法によるだろう。
(一カ所でもゴムバンドが切断されると、全体が一気に崩壊するインターネット上の
疑似テンセグリティモデルは、人力飛行機で言えば機体の構造上の設計ミスから
無惨にも墜落する機体に似ている。)

そして、もしテンセグリティが軽量ゆえに構造的に脆弱ならば、
われわれの60兆個の細胞にインストールされなかっただろう。

斥力と引力

原子間の2点間距離を維持するために、
自然は、引力と斥力を利用する。
(しかし、斥力としての重力はまだ確認されていない)

テンセグリティは、自然が利用するこの原理を再現している。
2点間距離を接近させると他の2点間距離は、
互いに遠ざかり、球の半径は増大する。
互いを遠ざけようとする力は斥力である。

テンセグリティが原子モデルならば、
テンセグリティ・モデルの張力材に、ゴムひもは不適切である。
ボールのようにバウンドできないからではなく、
シナジー的に斥力の機能を形成できないからである。

テンセグリティは、互いに非接触な原子核にように
自律的に振動することによって、
致命的な変形を免れているのである。

システムの振動によって、
強度と剛性はより向上するのである。

そして、
構造の安定性を大地の静止状態に求める
建築の構造とは、決定的に異なっている。

ハッカーの探求方法

スネルソンは純粋な圧縮材の非連続性を
バックミンスター・フラーから
ハッキングできなかった。
彼はいまでも、テンセグリティ構造のアンチ・リダンダンシーを
信じていない。
テンセグリティは構造としては危険であるという前提で
彼の芸術は成立している。

テンセグリティの機能を
オカルト的(occult=隠されたもの)に扱っていたから、
ハッカーの重要な主観的なモデリングに挑戦できなかったのだ。

例えば、70年代にテンセグリティを
最初に紹介した日本の図学者も、
張力の統合作用を信じていなかったのであるが、
テンセグリティモデルの複製において、
テンション材を針金で代用していたのは、
エンジニアリングの妥協を超えた
ただの学問的な偽装にすぎない。

ハッカーとしてのデザインサイエンティスト

ある金属繊維や炭素繊維をより小さい断面積の繊維に細分化していくと、
より細くなった繊維の束の強度は、
むしろ飛躍的に増加する。
この張力性能は、細分化を始める初期の単位断面積で比較すると、
数百倍から数千倍にもなる。
これは、表面積に対する質量の比が増加したためでもある。

こうした先験的な自然の富に関する考察は、
ことごとく教育システムから巧妙に排除されてきた。
あらゆる張力性能は、
それを開発した企業の投資した結果として所有するために。

あらゆる軽量化のための構造デザインが、
構造システムの純粋な外側の分割数を受け入れるならば、
本質的にシステム内のミクロコズムを囲い込む張力性能は、
自然に引き出される。

ハッカーとしてのデザインサイエンティストの基本的な戦略は
絶えざる自然の原理の発見が支持するだろう。   YK