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反固体的構造

引張材には、引張の端部を固定する支点が必須であるが
重力にそのような支点や基礎部は存在しない。
重力の大きさ(重力値)が異なっているだけである。

自転による遠心力が緯度により異なり
地球が完全な球形ではなく、回転楕円体であり
地球の内部構造が一様ではないように
球状テンセグリティ構造においては
すべての圧縮材の圧縮力とすべての張力部材の張力は
一様ではない。

テンセグリティは
大地からの自律性が形成される過程でさえ
つねに振動し外力分散し続けるための複数の頂点を形成する。

つまり、その頂点さえもつねに共振する支点を形成しているのである。

エフェメラリゼーション再考

巨大な飛行船は大地へゆっくりと着陸できる。

直径が数キロメートルのテンセグリティ・ジオデシック球が着陸する時も
浮遊しているタンポポが着地するようにしか見えないだろう。

大きさに対する経済学とエンジニアリングは未だに自由化されていない。
  
エフェメラリゼーションへの非物質化は
シナジェティクスとデザインサイエンスの統合によって
より短命化される。

テンセグリティの存在確率

より重要な部分をけっして形成しないで
付加的なリダンダンシーを排除したテンセグリティは
最高の知性が物質化した基底状態(garnd state)なのである。

それは自然(cosmic integrity)の方法であった。

人間の知性は
<つねに動的に統合された構造>を20世紀に初めて発見したのである。

プラトンの正多面体(solid)の静的な世界観から離脱するために
25世紀も経過しなければならなかった。

その構造は大理石よりも振動するがゆえに、より強度と剛性がある。

人間の生存空間が形成される時
電子軌道が電子の存在しうる空間であるように
その生存空間は圧縮材と張力材との相互作用による最も高い存在確率とみなされる。

反網膜的(anti-retina)

可視的な虹のスペクトルの識別可能な構成色が
色彩を表す言語数に依存するならば、
1677万色1原色あたり8ビット(256階調)以上のデープカラーは
色として網膜で感受できていても
脳では認識できていない。
人類はすでに色以外の情報の領域に達している。

網膜では
肉眼によって画素を認識できないほどの解像度やコントラストよって
可視的な色彩は、より鮮明で深みを感じるように変換される。

しかし、不足した色彩(例えば、墨絵や雪国の風景)が
過剰と同様に豊かさに変換できるのは、ひたすら言語による。

テンセグリティのモデル言語もまた反網膜的である。

テンセグリティの構造とパターンだけでは
その圧縮力と張力の動的な均衡は説明できないからである。

反対称的に統合されたテンセグリティモデルは
美的な色彩を拒み、素材の質感を超越するほどに反網膜的である。

モデル言語は視覚情報以上の<構造と意味>の相互作用領域に達しているのである。

実験装置としてのテンセグリティモデル

生命が自分の細胞を所有することではないように
テンセグリティ原理を理解するには
テンセグリティモデルを所有しないことだ。

テンセグリティを理解することは
テンセグリティモデルを制作するよりもはるかに困難である。

1995年にそれまで不可能とされていた
展開型のテンセグリティの完全なメカニズムを発明し
直径11mのプロトタイプを制作する過程で
100個以上の展開型のテンセグリティモデルを制作し
30種以上の新しい構造とパターンを発見することができた。
(そのプロトタイプの展開プロセスとジョイントのディテールの映像などは
『宇宙エコロジー』美術出版社 2004 P.352 などに記載)

しかし、テンセグリティを現在のように理解することはできなかった。

テンセグリティというもっとも単純な構造部材から構成された構造のシナジーは
まだ完全に言語化されていないのである。
反対称的な構成要素とは、圧縮力と張力の相互作用である。

種々の圧縮力と張力の相互作用を具体的な
実験装置としてのテンセグリティモデルにはまだ発見と発明が混在している。

この相互作用を新たな物理的な実験によって科学的に発見する時、
美的なテンセグリティオブジェは単なる副産物である。

発見的エンジニアリングは、実験者の内部で形成される物質化への過程にある。
美の複製は実験者の外部で形成されるかぎり、物質化の遅延を引き起こすだろう。

柔軟な強度へ

テンセグリティ構造とは、思考の構造さえも否定する
前例のない構造の純粋な物質化なのである。
同時に、柔軟な強度と剛性を備えた構造の一般化でもある。

純度のもっとも高い (99.9999 %) 鉄は
表面が銀色に輝き、異種金属に接触しても
電気的に腐食しなくなるだけではなく
柔らかいが割れにくく容易に切断できなくなるように
圧縮材が不連続な純粋なテンセグリティ構造では
一部の張力材が破断しても共鳴作用に補償作用が形成されると考えられる。
実際、外力分散機能はほとんど劣化しない。

これまでの圧縮材のみから構成された構造や張力材が非連続な構造は
すべて特殊で部分的だったのである。
むしろ、それらを不完全な構造とさえ呼ぶべきではないだろう。

フラーレンはダイヤモンドの表面を損傷させるほどの<柔軟な強度>を備えていた。

自然が<固体的な強度>よりもより強度のある<柔軟な強度>を選択する場合
すべてテンセグリティ構造なのである。

備考
<柔軟な強度>については
『宇宙エコロジー』(バックミンスター・フラー+梶川泰司 著 美術出版社 2004)
の直径11mのフォーダブル・テンセグリティ構造(1995 by シナジェティクス研究所開発)を参照

共鳴テンセグリティの起源

張力に対する反対称的な概念は圧縮力である。

圧縮力はその力の及ぶ物体に軸方向を定めようとする力である。
張力はその力の及ぶ物体どうしのある複数点間における応力を領域に展開する力である。

閉じたテンセグリティ球において
張力は線状の物体に対して加わる力の反作用力として 
線状の物体がその力を及ぼしている物体に対して加える力、
つまり圧縮力を生じさせているのである。

張力がなければ圧縮力は形成できないが張力は圧縮力が制御するテンセグリティは
明らかに、上記の張力と圧縮力についての知識から生まれたのではない。

共鳴型テンセグリティは動的なバイオスフィアと
絶えず共鳴しているもっとも鋭敏な外力分散型自動機械である。

この自動機械を構成する不連続な圧縮材を統合するための張力ネットワークは
自然の観察や自然の形態模倣からではなく
バックミンスター・フラーの独自な想像力(=モデル言語力)が再構成している。

人間の想像力だけが、テンセグリティ原理の知識と物質を統合できたのである。[梶川泰司]

☆外力分散型の稠密充填型テンセグリティ・ジョイント(特許)を使用した球状テンセグリティモデル
                      構造デザイン 梶川泰司 + モデル制作 嶋あゆ子

[解説]テンセグリティジョイントと柔軟な強度と剛性について

各圧縮材端部に形成されたテンセグリティ・ジョイントによって
外力分散を短時間に効果的にする動的なネットワークの機能を形成すると同時に、
テンセグリティ構造の強度が飛躍的に増大するのは、テンセグリティ・ジョイントの軸回転機能による。
さらに、強度の飛躍的な増大は同一のテンション材の破断の限界が劇的に向上していることを意味する。

柔軟な強度と剛性は、軸回転機能のあるテンセグリティジョイントとネットワークとの相互作用から生まれる。
                               

続)シナジェティクスのモデル言語

モデル言語が理解よりも先行した真の構造革命は
中心軸のある初期のテンセグリティとしての
ダイマクションハウスを陳腐化した。

バックミンスター・フラーの愛好者たちは
4Dハウスとダイマクションハウスの基本概念を超えるまでの
もっとも長い懐胎期を知らないまま
彼の幾何学と工学を駆使した包括的デザインを
20世紀のレオナルド・ダ・ビンチと称してきた。

多軸テンセグリティ原理の発見は
ジオデシック原理の発見の前夜だったのである。
(参照 第3章 テンセグリティの発見 『宇宙エコロジー』
バックミンスター・フラー+梶川泰司著 美術出版社2004)

シナジェティクスのモデル言語から構造の全歴史における
最大の飛躍が翻訳できなければ
人々は論理的な理解に急ぐ習慣を変えないまま
時間的事実を逆さから理解することに終わるだろう。

遺作となった『コスモグラフィー シナジェティクス原論』
(バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社 2007)では
彼はダイマクションカーとダイマクションハウスの量産計画に
携わっていなければ、シナジェティクスは
さらに加速していた可能性を告白している。

シナジェティクスのモデル言語

嵐などで絶えず変化する応力を受けると
ジオデシック構造の圧縮材には
圧縮力だけではなく、非同時的に張力もかかる。

応力を受けてもつねに張力材には張力しか存在しないと同時に
圧縮材にはつねに圧縮力しか存在しない構造が存在する。

テンセグリティ構造の発見には
新たな概念の発見を伴っていた。

つまり、圧縮材には圧縮力のみがかかるという概念操作が
張力材は張力のみがかかるという
実際の非鏡像的な物理現象を引き起こしたのである。

単なる思考言語からは
この新しい現実を誰も発見することができなかった。

テンセグリティ構造をジオデシック構造の原理よりも
早く発見したバックミンスター・フラーのモデル言語は
理解よりも先行して生成されていたはずでる。

新しい現実は後に言語によって理解されるが、
その理解はモデル言語が生む現実とは隔たりがある。

実際、ダイマクションハウス(1944年)の量産化からの撤退後の数年間
デザインサイエンスに関するクロノファイルは
ほとんど存在していない。

彼は多軸テンセグリティ原理の発見(1949年)まで
シナジェティクスのモデル言語の起源を遡る過程に深く没頭しているのである。

モデル言語とは<実在と過程>そのものへ向かう探査なのである。

そしてこの探査なくして
21世紀にシナジェティクスは存在しない。