年別アーカイブ: 2007年

テンセグリティ

フラーレンはダイヤモンドの表面を傷つけるほどの強度を持っている。
しかし、それはけっしてダイヤモンドよりは堅いことを意味しない。
圧縮と張力に注目しなければ、この分子的世界像を記述できないにちがいない。
圧縮と張力という相補的な概念を理解するには、もはやシナジェティクス・モデル以外には存在しない。

テンセグリティモデルは、多頂点体(polyvertexia)の一般化である。  Y.K

多頂点体(polyvertexia)

科学史上最初のモデルは、炭素の4面体モデルであった。
次に科学史上最も短いノーベル賞論文は、遺伝子の2重螺旋モデルであった。
そして、20世紀の終わりに3番目の炭素の結合モデルの発見によって、
物理学の概念は大きく揺れ動いた。

実際、フラーレンの発見では、面数が観察されたのではなかった。
発見者たちは、観察された情報を新しい概念で再構築したのだ。
頂点という出来事の数(=分子数)を新しいモデル言語で統合したのだ。

シナジェティクスは、フラーレンが発見される前から、多面体という固体的概念から
多頂点体(polyvertexia)の概念を発見して、様々な数学的発見を蓄積していた。
バックミンスター・フラーレンという長い学名には
シナジェティクスへの敬意が顕れている。   Y.K

デザインサイエンス

科学的デザインもデザイン的科学も
デザインサイエンスではない。

デザインサイエンスと
デザイン/サイエンスの間には
雲泥の差がある。

「機能美」と「冗長美」は、デザイン/サイエンスで論じられる
いつものデザイナーの思い上がった目的論である。
彼らの存在意義は、人類の生成する美と繋がるしかない。

個人がテンセグリティ・モデルを制作する意義は、ここにあるだろう。
テンセグリティは、圧縮力と張力という完全に分離可能で非鏡像的な相補性に基づいて
選択された最適な(optimum)あるいは最高度の要素の集合である。
その集合した物資的な統合状態の結果を美しいと感じることは異なった問題である。

数学や科学的手法に依存したからすべて自動的に最適で望ましい状態が
デザインできると考えるのは楽天主義(optimism)である。
最適化には、つねに最終的な観察者の選択(option)の問題が残されている。
実際、この半世紀の間、テンセグリティ圧縮材と張力材の最良の組み合わせは変化し続けている。

自然においては、すべてのテクノロジーは最適化されている。
引力は、宇宙が断面積をゼロに最適化した最高度の張力材である。
その結果、人類には不可視の存在となった。
人間は最適化されたテクノロジーを創り出せない。
これまで以上に最適化を推し進める普遍的な原理を発見するだけである。
(原理を発見するための最適化された思考法は未だ発見されていないことに注目しなければならない。)

しかし一方で、原理と無関係な無数の「最適化」は、つねに流行(=形態form)を作りだしてきた。
すべての計画的陳腐化にはこの「最適化」が利用される。あるいは、価格の最適化としてのオークションに熱中する「楽天」主義者(optimist)である。

戦争は、資本主義における最大の「最適化」である。
バックミンスター・フラーのデザインサイエンスは、永遠のアンチ・ウォーゲームである。
数学や科学的手法に依存しなくても、直観的に理解可能な目的論(=インテグリティ)である。  Y.K

テンセグリティ構造とアンチ・リダンダンシー

リダンダンシー(Redundancy 冗長性)は、語源的に波立ち、あふれでて、流れ帰る状態を意味する。
遊びや余裕、余地を意味し、遂に人間が建造物や機械類・システムの設計において、
緊急事態に備えて付加するモノを意味するようになった。
地震などの緊急事態以外では、過剰なモノでもあるが、
システムの構成要素の一部が故障してもシステムとしての機能がまっとうできるように
余分な構成要素を完全に省略できるデザインはないという前提を支持してきたのは、
われわれの生命の安全を保障するためである。

ところがこの概念では、テンセグリティ構造を説明できない。
過剰なモノはすべて排除した構造でありながら、テンセグリティ構造は、
振動数というきわめて純粋な原理に基づいてデザインされた
真のニューマティック構造である。

これまでのテンセグリティ構造の発見によって、設計者が定義するリダンダンシーは、
計画的陳腐化を擁護する疑似科学理論となった。
ビジネスでは、余計なコストの集積を合法化するための巣窟となった。
なぜなら、航空機産業以外で定義されるリダンダンシーは、
専門家を利用した生命の安全を保障する記号的な疑似テクノロジーで、
隠れた余剰生産を専門家集団に提供できるからである。

リダンダンシーを否定する構造システムと対立しているのは、
もはや古い構造理論ではなく、われわれの暗黒時代から継承されている
輪郭が不明瞭な社会システムそのものである。

テンセグリティ構造は、<でたらめさ>と<冗長度(リダンダンシー)>をあらかじめ未然に回避できる唯一の理論である RBF『コズモグラフィー』(2007年6月近刊)

自然は、 do more with lessによってアンチ・リダンダンシーを選択している。
それこそが、自然に内在する先験的デザインなのである。
自然の冗長美は、われわれの無知から、波立ちあふれでて流れ帰る状態に見えているだけである。  Y.K

自由への構造

シナジェティクス入門講座はすでに3月のオリエンテーションに始まり、
いよいよ6ヶ月の間、『コズモグラフィー』(6月刊行予定)をテキストにしたモデル言語を習得する。

かなり実験的な講座(教育法だけではなく、プログラム概要や参加費なども意図的に公開しなかった)であるが、定員を超えた講座生が参加することになった。

ブログは私の講座プログラムの重要な唯一の公開情報であり、
言い換えれば、ブログ以上の情報はなかったにもかかわらず、
結果的に強い興味から私に直接参加宣言した人ばかりという特徴がある。

know-whyに忠実に反応するための、最初の重要なプリセッションがあったと感じる。
プリセッションは明らかに情報量に比例しない。

シナジェティクス入門講座の開講後も、しばしば問い合わせがあるが、
今後シナジェティクス講座やデザインサイエンス講座に移行するため第2期生の募集は未定だ。

教育は個人教育が効果的だ。これまでこの方法が民主主義社会で検討されなかったのは
効果的かもしれないが財政的に困難だからとか、学生より教師が常に少ないからというだけではないだろう。
なぜなら、21世紀では、
この可能性を確実性に変換できる電子的で経済的な方法はすでに豊富に存在しているからだ。
教師と学校がこうした方法に不慣れな理由は、
この方法が、教師の終身雇用と学校というシステムを破壊するからだ。

私は経験から、すべて学びたいことを個人教授から始めることは、
もっとも効果的で人間的なことだと感じる。そしてもっとも信頼できる自由への構造なのだ。

「構造とは何か」。
これはシナジェティクス入門講座の最大のテーマである。  Y.K

テンセグリティのヤング率は誰が決めるのか

力が働いても、形が変わらないように見える物体は剛体と言われている。
それに対して、力が働くと形が変化するように見える物体は弾性体と言われている。

物理学が、すべての固体が弾性体であると定義した瞬間に
すべての物体において理想的な固体は存在しなくなる。
弾性体には必然的に相対的な硬さの値を表すヤング率が存在する。
合金でさえ原子間の凝集力が弾性的性質を決めている。

テンセグリティモデルの弾性的性質を自由に決めて良い場合、
張力体をゴム材で構成することは、
自動車のタイヤをタイヤよりもヤング率の大きい金属や木でデザインするようなものだ。

つまりエンジニアリングの決定的な欠如があるのである。

自然が構造の作りやすさのために、原子間の凝集力を犠牲にすることはあり得ない。

フラーレンもナノチューブのヤング率も、
テンセグリティ構造以外では再現できないだろう。  Y.K

—ヤング率の比較—
ナノチューブ 1200
炭素繊維  345
鋼鉄 208
木 16
エポキシ 3.5
ゴム (1.5-5.0)×10-3
ポリエチレン 7.6×10-1             単位[GPa]

母国語

私の数学と科学の母国語は
シナジェティクスである。

シナジェティクスとは視覚化可能なモデル言語である。
このモデル言語を習得すると
超専門化された言語は、方言のように感じられるだろう。
互いに他の専門分野の言語は分からないように作られているかぎり。  Y.K

天然素材主義のジレンマ

自然派エコロジー運動は、天然素材主義のジレンマ選択する。
たとえば
「スタードーム」
http://www.stardome.jp/
のような市民運動的な理解の段階において。

水素もウランも天然素材である。
すべての人工物は存在しないという視点は
「宇宙船地球号操縦マニュアル」に十分に書かれているのあるが、
(われわれ翻訳チームが開拓する新訳では、結果的に天然素材主義者にとって、
居心地が悪くなっていなければならない。)

個人が制作するすべてのシェルターのもっとも経済的な圧縮材は
アルミパイプである。
地中で3番目に多い天然素材だからである。

ノースフェイス社がオーバルインテンションにアルミ合金のパイプを採用した理由は
航空機が竹でできない理由と同じである。
経済的でも、構造的でもないからだ。
まして安全でもない。  Y.K

テンセグリティ球(30struts-Tensegrity)

テンセグリティ原理はモデリングによって学ぶことができる。
しかし、複数の経験によって理解できるのはずっと後だ。

私は、30sstruts-Tensegrityモデルを1時間以内に
誰もが簡単な説明で制作できるようにするという
私の最優先課題の解決までの20年間に、
300個程度の大小様々なテンセグリティモデルを制作した。
その内最大の直径は11mであった。

精密な張力材によるテンセグリティ球モデルの制作に従事した経験のある人なら、
この方法が革命的な方法であることに同意するだろう。
同時に、テンセグリティのことはまだよく分かっていないということに
異論はないだろう。  Y.K

無重力

テンセグリティを見て驚かないこどもが確かにいる。
その理論をテンション材がゴムひもからできた劣悪なエンジニアリングによるモデルで、
宇宙での応用デザインによる産業的可能性を論じる科学者もいる。

重力は断面積がゼロの究極の見えないテンション材だ。
見えない重力に驚かない科学者が確かにいる。
地球上の固体的世界観で無重力に憧れている生活をしているからだ。

彼らは圧縮材が浮かんでいるテンセグリティがどこか無重力的だと思っている。
理解と感性がしばしば分断された知識のままだ。
テンセグリティは引力と斥力の調和を最初に視覚化したモデルだ。
現在、電磁力にのみ、引力と斥力の両方が存在している。
重力には、引力だけが確認されており、斥力としての重力は確認されていない。
このモデルが、 1952年プリンストン大学で
統一場理論の探求に明け暮れていた物理学者アインシュタインを驚嘆させたのは言うまでもない。
しかし、この物理学の事件を、物理学者は知らない。