デザインサイエンス(バックミンスター・フラー)」カテゴリーアーカイブ

自然農と自然栽培

最近よく聞くようになったこの2つの言葉には
認識の違いよりも概念の違いが大きく横たわっている。

人間が栽培する方法で植物が正常に生育した場合
それらはすべて自然が許した栽培法になるという意味で
どんな栽培法も「自然栽培」になり得る。

元素でさえ
たとえ自然界にない元素を
人間が作り出したとしても
自然が許した範囲内で生成していると考えられるように。

一方、
科学にも自然科学があるように
科学的方法により自然法則を導き出すことで
自然の採用する方法を理解することができる。
したがって、
農学にも「自然農学」があると考えられる。

自然農学から発見された栽培方法によって
人間が栽培する方法を選択した場合を
自然科学的な方法の一つとして
「自然農栽培」と定義できる。

驚くことに人類はこの自然農栽培方法に関する
福岡正信氏の発見から
まだ半世紀しか経過していない。

「自然栽培」は
人間のエコロジーに対する
直観的な価値観によって選ばれた自然な栽培方法に見えるが
「自然農栽培」は
自然がdoing more with lessで選択した栽培方法でもある。

デザインサイエンティスト

人類最長の学習過程を必要とする
デザインサイエンスにおいて、
芸術家・科学者を自認する
それらデザインサイエンティストは、
40歳代までに数学や科学の分野で
まったく新しい独自な研究を見出せないならば、
最終的に<普遍的な生活器(livingryまたはTrimtab)>
のデザインを生み出すまでには至れないだろう。

そのデザインにおける普遍性こそは
自ら発見した自然の秩序と複数の原理間との
統合性から生まれる
非物質化(=エフェメラリゼーション)の度合いで決定される。

この非物質化への挑戦、
つまり
バックミンスター・フラー死後40年間に渡り
デザインサイエンスの歴史が生んできた
<普遍的な生存のためのTrimtab>は、
総合性を自負する”学際的科学”から
ついに生まれなかった。

彼らの目指す独創性と
人類が生存のために必要とする自然の秩序とが
あまりにも隔たっていたからである。

雲と泥のデザイン

脱獄の概念から
固体的概念からの脱獄は
生まれないように、

デザイン理論から
デザインサイエンスは生まれなかった。

デザインの総合化と
統合されたデザインの発見の違いのように、

デザイン・サイエンスと
デザインサイエンスとの違いには
雲泥の差(world of difference)がある。

泥は土と水とが混じり合って形成されるが
雲は植物の葉から蒸発した水分が
遠隔的に移動し、
そして
浮遊できるように
電気的に生成される。

デザインサイエンス教育

デザインサイエンスにはクライアントがいない。
科学的原理の探求にクライアントがいないように。

バックミンスター・フラーのデザインサイエンス教育プログラムは、
リダンダンシーを排除できないまま
「効果的なデザイン教育」をしている素振りを社会にプレゼンするような
堕落した教育産業的なサービスの義務から解放されている。

デザインサイエンス教育とは
<Trimtab>のデザイン方法の探求と共同性によるそのプロトタイプ制作である。

そのデザインサイエンス教育プログラムこそ、
『クリティカル・パス』の第6章のクリティカル・パス方から学ぶことができる。

『クリティカル・パス』バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳 白揚社 2007

クリティカル・パス的思考

デザインサイエンスは過去に為された種々の実験と独自の実験から
導かれた次の科学的思考に基づいて
もっとも包括的な具体的な方法と人工物をデザインしてきた。

1.
人類の高い生活水準が、日々の太陽エネルギーからの多様な派生物で
完全に維持できることは明らかである。
2.
この生活水準を達成・維持できる手段が、
パイプと送電線そして料金メータを介した少数の人間による大多数の搾取から
人間を解放する人工物であることは明らかである。

クリティカル・パスはアンチ・アブノックスである。
(パイプと送電線そして料金メータは20世紀以後の最大のアブノックスである。)
結果的に、
上記の科学的思考はつねに最新のクリティカル・パス方を更新することができる。

予測的デザインーーーーー既製品を使う

第2次世界大戦が開始される2年前、
バックミンスター・フラーがイギリスの産業都市に対する大量爆撃の予測に余念のない
スコットランドの政治指導者からの依頼で提案したのは
大量生産できるワンルームの小さな自律的な居住装置だった。
それは開発済みだったのである。

カンザス・シティーにあるバトラー・マニュファクチュアリング社で大量生産している
亜鉛メッキされた鋼鉄でできた直径六メートルの穀物貯蔵庫を、
耐火性と耐震性があり、適度に断熱され、灯油で稼働する冷蔵庫および石油ストーブ、
そして既製品の家具類を備えた即時入居可能な
自律的ユニット(当時1500ドル)に転換する方法で、
その自律的な居住装置はデザインされていた。

数千基のダイマクション展開ユニットを
確実に都市から退去させられる住民の宿泊施設として
スコットランドの荒野に設置するフラーの計画案に
その依頼者は疑問を抱かなかった。

バックミンスター・フラーは、
可能な限り「既製品を使う」デザイン理論を
ダイマクションカーの開発時から一般化していたのである。

この20世紀のデザインサイエンスの手法こそ、
21世紀の緊急災害時だけではなく
平時においても広く利用可能である。

シナジェティクス研究所 梶川泰司

MADデザイナー

コンピュータでデザインする人は実に多い。
たいていの構造も
CAD(computer-aided-design)でデザインできる。

シナジェティクスの発見は
コンピュータで支援されるデザインよりも
モデリングで支援される概念モデルに依存している。

このMAD(model-aided-design)デザイナーは
アプリケーションではなく、
構造と意味を統合する
メタフィジックスに属している。

直観的なMAD(model-aided-design)で到達する
シナジェティクス・モデルは
思考言語(thinktionary)でのみ記述可能である。

テンセグリティ構造は角度と振動数である

自然はテンセグリティ構造を再生システムとして採用した。
人類のこれまでの固体的住居を構成する殻や壁は、
圧縮材ではなく張力材として機能すべきだ。
そして、テンセグリティ構造は、
周囲の環境と共存した状態を形成するために常に振動するシステムだ。

自然が振動というDo More with Lessを採用する時、
振動は構造を常に軽量化すると考えられる。
Doing More with Lessは、張力材を構造に包含させるための、
構造デザイン上で最も効果的な方法論になる。

<角度と振動数(=分割数でもある)はテンセグリティ構造に変換できる> Y.K

2011年度 デザインサイエンス講座開講の準備 その3

社会経済の問題を解決するための
政治的な手段ではなく、
アーティファクトの発明と開発だけを手段として
デザインサイエンスの目的を続行するうえで
不可欠となる作業項目を日々遂行するには、
お金ではなく、<食料、エネルギー、シェルター>が必要だ。

食料とエネルギーとシェルターを
すべて同時に十分に与えられていない
個々人にとって
他人からの贈与や補助金、
そして貯蓄など当てにしないで
アーティファクトを唯一の手段として
問題を解決する責務に耐えるだけの
時間と経費を計算できる包括的能力は
最初の重要なノウハウである。

このノウハウを実践的な行動によって習得するのが
デザインサイエンス講座である。

ノウハウという実際的知識の習得プロセスにおいて
お金ではなく、<食料、エネルギー、シェルター>が必要だという
経験に基づいた認識は、
自己のテクノロジー(=自己規律)に属する。

エフェメラリゼーション革命                         ーーー『クリティカル・パス―宇宙船地球号のデザインサイエンス革命 』について

〈不可視〉のテクノロジーによって、
機能の一定の増加を達成するために
投入される素材の単位重量あたりの体積、
単位エネルギーあたり、
そして単位時間あたりの労働時間
と生産システムの維持管理時間あたりで
遂行される仕事は、
原理の発見と発明によって
絶えずそれらの量と質を高めていく。

この複雑な過程を、バックミンスター・フラーは
物質の短命化(エフェメラリゼーション)と呼ぶ。

全体的に増加した技術的ノウハウの総和と
その包括的な統合作用によって、
1970年代にすでに人類は、
目には見えない境界を超え、
全人類のための普遍的な成功が
技術的にも経済的にも実現可能な
革命的な段階に到達していたことを
『クリティカル・パス―宇宙船地球号のデザインサイエンス革命 』
(R.バックミンスター フラー 著, 梶川 泰司 訳 白揚社 2007)
で指摘している。

地球人による化石燃料と原子力のこれ以上の使用が
すべて段階的に廃止可能なことも実証している本書では、
<脱>原発や<反>原発以上に
テクノロジー自体が本質的なエフェメラリゼーションの過程を
指向していることに気づかせてくれる。

テクノロジーとは、
doing more with lessの無限性を内包している
自然の姿である。

孤立しながらも
真のテクノロジーを発見する個人こそは
つねに宇宙的段階を指向できる。

2011年5月4日
シナジェティクス研究所
梶川泰司