細長比(Slenderness ratio)からの離脱 その3

このテンセグリティ理論によって
構造の革命を事件によって認識した瞬間に
これまで構造と言われきた
あらゆる種類の圧縮材の連続によって
物質とエネルギーはつねに浪費されていた事実に気づくのである。

テンセグリティにおいては
その半径の増大と共に
圧縮材は相対的に、より細くより短くなるのである。

超軽量構造を具現化するテンセグリティとは
外力からのリスクから解放されるばかりか、
内部の自重という束縛から解放するシステムを獲得した最初の構造を意味している。

この包括性の物質化した科学的実験を理解した最初の科学者の一人に
アインシュタインがいる。
1951年のプリンストン大学の構内に制作された
バックミンスター・フラーの直径10mのテンセグリティ球を見た瞬間こそ
圧縮力と張力との相互作用を具現化した原子核モデルの認識が始まった瞬間なのである。

しかし、一般化を追求する過程であまりも抽象性に陥っていた物理学は
その歴史的瞬間の言語化にはそれ以後も無関心であった。

原子核の陽子は記号として赤い球体、
電子は陽子を周回する小さな白い球体で表されたままである。

相互作用を視覚化した包括的な力学モデルは
シナジェティクス以外は挑戦してこなかったのである。

シナジェティクス研究所  梶川泰司

Fig. 730.12 Stabilization of Tension in Tensegrity Column: by RBF

We put a steel sphere at the center of gravity of a cube which is also the center of gravity of tetrahedron and then run steel tubes from the center of gravity to four corners, W,X,Y, and Z, of negative tetrahedron (A).
Every tetrahedron’s center of gravity has four radials from the center of gravity to the four vertexes of the tetrahedron (B). In the juncture between the two tetrahedra (D), ball joints at the center of gravity are pulled toward one another by a vertical tension stay, thus thrusting universally jointed legs outwardly, and their outward thrust is stably restrained by finite sling closure WXYZ. This system is nonredundant: a basic discontinuous-compression continuous-tension or “tensegrity” structure. It is possible to have a stack (column) of center-of-gravity radial tube tetrahedra struts (C) with horizontal (approximate) tension slings and vertical tension guys and diagonal tension edges of the four superimposed tetrahedra, which, because of the (approximate) horizontal slings, cannot come any closer to one another, and, because of their vertical guys, cannot get any further away from one another, and therefore compose a stable relationship: a structure.

細長比(Slenderness ratio)からの離脱 その2

構造は圧縮材の相互結合によってのみ
自律すると考えられてきた歴史は
圧縮材として自然素材の岩石を選択したことから始まる。

岩石は大地と不動の関係(=重力によって自重をより大きな固体的な大地に流して振動を回避する)を
維持できるという概念は
20世紀まで生き延びたのである。

テンセグリティにおいては
張力材を介した圧縮材との相互作用によって
外力を振動エネルギーとして分散する機能に変換されるので
細長比はそのままでも坐屈の可能性はなくなるばかりか
ついにテンセグリティ球の分割数の増大と共に
その球の大きさには際限がない最大の自律的自由を獲得できる。

圧縮材には圧縮力のみが
張力材には張力のみが作用する純粋な機能分化を作用させるためには
張力ネットワークは
つねに連続していなければならない。
 
統合力は圧縮力にではなく
張力の側に存在するからだ。

細長比(Slenderness ratio)からの離脱 その1

細長比(Slenderness ratio)からの離脱 その1

外力または自重による
あらゆる種類の圧縮材の変形はやがて
圧縮材の固有な細長比(=Slenderness ratio,圧縮材の断面の直径と長さとの比)
の限界を超えると、その構造材は坐屈するばかりか
構造の深刻な全体的な破壊は加速度的に進行する。

テンセグリティにおいては
圧縮材の細長比が引き起こすこのような坐屈へのリスクは皆無である。
なぜなら、細長比の限界を超えないように
圧縮材の直径に対する長さが調節可能になり
すべての圧縮材は不連続に形成できるからだ。

圧縮材を不連続にすれば、それらは同時的にかつ非同時的に
絶えず振動するようになる。

概念と非存在について

テンセグリティに面は存在しない。

隕石の中からバックミンスター・フラーレンが発見されたが
面はついにイマジナリーであった。

宇宙に多面体は存在しない。

テンセグリティ球には面はなく
張力で囲まれた無数の窓が存在する。 
数えられる無(nothingness)として。       

梶川泰司

270 struts-tensegrity  by RBF

シナジーの視覚化

付加すべき機能がなくなったばかりか
排除する機能もなくなった状態から
突如シナジー的に形成される外力分散機能とは
構造の動的平衡の完璧な視覚化である。

テンセグリティにおける
最小限の2つの現実とは
互いに分離され出会うことのない張力材と圧縮材である。

統合する意志がないかぎり
永遠にそれぞれの現実に属している。 梶川泰司

Universe as “A Minimum of Two Pictures”:
Evolution as a transformation of nonsimultaneous events:
the behavior of “Universe” can only be shown with a minimum of two pictures.
Unity is plural and at minimum two.
(Drawings courtesy Mallory Pearce)

分割数(frequency)とは何か

「半分の長さは倍の長さに等しい」というdualityの法則は
ジオデシックス理論ではfrequency理論から創出される
シナジー原理そのものである。

半径を増大させる時、ジオデシックテンセグリティ構造を
構成する部材は、より細く薄くなり(=けっして相対的ではなく)、
単位体積当たりの構造体の重量は、加速度的に軽量化される。

ただし、分割数の増加と共に半径も比例して増大するならば。

角度と振動数について

巨大地震に対抗するために構造物に対して構造安定志向が生まれた。
免震、耐震、制振といった機能は通常の構造物には存在しない。

施工の複雑な「免震」や高価なダンパー装置を付加する「制震」は、
「耐震」と比べると建築構造物の場合はさらに高コストになる。

しかし、免震、耐震、制振であれ
基本的には大地に依存し大地にエネルギーを流し込む構造安定志向は、
実際には恐怖と無秩序の原因となっている。

テンセグリティ構造は本質的に共振するメカニズムをもっている。
テンセグリティは共振によって外力分散機能を形成する自然の構造システムである。
そのためのいっさいの付加的装置を排除してデザインされる。

テンセグリティ構造をデザインすることは
形態のデザインではなく
角度と振動数の調整を意味する。

航空機は高速飛行中に受ける気流と衝突で発生する種々の振動に対して
免震や耐震そして制振のための付加装置が存在しない最初の人工物である。

航空機の機体や翼が固体的ではなく柔軟な強度でデザインされているように
住宅も、地上に一時的に停泊しているより軽量で剛性の高い機体(=動く自律的シェルター)
としてデザインすべきである。

☆図版解説
テンセグリティは穴だらけの内圧のないバルーンである。
もっとも経済的なニューマッチクである。 梶川泰司

Synergetics (Fig. 761.02 Function of a Balloon as a Porous Network.)
R. Buckminster Fuller

デザインサイエンスのプロトタイプ(prototype)について

量産のための原型を産業社会では
プロトタイプ(=prototype)と呼んできた。

1927年から開始されたバックミンスター・フラーの
デザインサイエンスにおけるプロトタイプとは
もはや試作品ではなく
モジュールの複製のための<最初の原型>のデザイン
または
その<母型>の発見のプロセスを意味する。

後にこのプロセスは<クリティカル・パス>として一般化された。

<クリティカル・パス>を開始する準備段階として
形態(shape)を超えた原型に出会うための
マインドが直観的に探査する方法こそは
シナジェティクス・モデリングに他ならない。

反・骨格

構造に関する<デザインの基礎>も<デザインの骨格>などの概念も
人類が固体的な圧縮から住居を築き上げた経験が何万年も成功した結果
圧縮材のみから構成される概念の慣性力から生まれた残像である。
それは網膜に焼き付いている過去の思考形態である。

張力に関する概念の歴史は
陸ではなく文字文化を持たない海の民によって継続されてきた
ほとんど重さを形成しない方法(=Trimtab)の歴史である。

テンセグリティに全体的破壊が存在しないのはなぜか。

テンセグリティに基礎は存在しない
そして
テンセグリティに骨格は存在しないから。

直観的

形態(shape)を超えた原理に出会うために
マインドが直観的に探査する方法こそは
シナジェティクス・モデリングに他ならない。

その経験によって
直観と直感を明確に区別できるようになるだろう。